ゴリラ研究で知られる山極壽一さんに、「奄美」で行くべき自然スポットを聞いてみた
鹿児島県は、日本でも指折りの島の数を誇る
鹿児島県っていうのは、日本の都道府県の中でも指折りの島の数を誇る県なんですよね。島については、島津藩の支配下にあったが故に、歴史的にそれぞれがあまり自己主張することがなかったように思います。たとえば、種子島は鉄砲が伝わったから一目置かれていましたが、奄美は西郷隆盛の島流し先になっているくらいで、注目されていたとはいいがたい。 やっと2021年に世界自然遺産に登録されましたが、奄美と徳之島も違うし、「奄美」と一言で言っても八つの有人島があり、多様です。とはいえ、一連の独特な島として、世界に売り出せる特徴を持っています。 地政学的にも、東アジアの要衝の地です。例えば、加計呂麻島のあたりは、作家の島尾敏雄が特攻隊員としてしばらく逗留して終戦を迎えたことを書いていますが、日本の戦時中の要衝になっていた。今も中国に対しての最前線のひとつになっていますよね。 もう一つ面白いのは、沖縄の三線(サンシン)に対して、奄美の三味線は、音域とバチの奏法が違うので、音色の質が異なるんです。奄美の三味線の方が細い弦で高音が出ます。竹のバチで上下をつま弾く「返しバチ奏法」と呼ばれる奏法だそうですが、沖縄の方は、水牛の角のバチで、上から下へとつま弾くと聞きました。 歌も独特ですよね。有名な、元ちとせさんとか、中孝介(あたりこうすけ)さんとか、沖縄の民謡とはまた違って、歌い方にも味がある。奄美で音楽祭を見にいったことがあるけれど、すごくよかったです。人口が5万人だけなのに、なんと豊かなことかと思いました。自然とはまた違うけれど、FM奄美の放送内容も、地元の人がどんどん出てきて勝手にしゃべっていくから、飽きなかったです。
奄美で40年間ハブの研究をしていた人がいます
服部正策さんが奄美の自然とハブを紹介した『奄美でハブを40年研究していました。』もちょうど読ませてもらいました。40年もいたというのは、やっぱり奄美が大好きなんでしょうね。もともと奄美の生まれではないのに、東京から派遣されてそのまま40年とは珍しいでしょうね。ハブの専門家だからハブに魅せられたのか、それを通じて奄美に魅せられたのか。 服部さんは研究者でもあったから奄美の誰も知らない深さを知っているんだと思います。今一番日本人が住みやすいと思っている人が多いのは沖縄県でしょう。海の幸も豊富だし、基本的にあったかいから過ごしやすい。屋久島は冬は寒いのですが、南下して奄美までくると冬は温暖だし、文化もある。大島紬もあって田中一村の絵も見られて、歴史的にも深いものがあって、奄美はいいところだと思います。 奄美の自然を、よいガイドさんと一緒に歩く。服部さんの本をガイドにしてもいいでしょう。その途中でラジオを聞いたり文化に触れたり、お勧めの旅先です。
デイリー新潮編集部
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