「あんなのは漫才じゃない」 M-1優勝も大論争が…「二冠王者」野田クリスタルが今も支持される理由
相方・村上に誘われて
芸人としてやさぐれてトガッていた当時の彼にとって、何でもありの地下の世界は居心地が良いものだった。テレビでは発表できないようなアングラ志向のネタをやり続けていた。 そんな中で、相方を探していた村上に誘われて、マヂカルラブリーというコンビを結成した。結成1年で「M-1グランプリ」の準決勝に進むという快挙を成し遂げたが、その後はなかなか仕事が増えず、バイト漬けの苦しい日々が続いた。 2017年の「M-1」でマヂカルラブリーは初めて決勝に進んだが、思うように笑いを取ることができず、最下位に沈んだ。審査員の1人である上沼恵美子からは酷評され、SNSでも多くの視聴者から厳しい言葉が投げかけられ、炎上状態となった。芸人がスベりすぎて炎上したのは史上初のことかもしれない。 「最下位イジリ」でバラエティ番組の仕事は増えたが、それも彼らにとっては屈辱的なことだった。そして、マヂカルラブリーは3年越しにリベンジを果たす。2020年の「M-1グランプリ」で見事に優勝したのだ。 しかし、このときも文句なしの快勝というわけにはいかなかった。大会終了後、動きの多い彼らの漫才について「あんなのは漫才じゃない」と主張する人が出てきて、空前の「漫才論争」が巻き起こった。 プロの審査員が認めた芸が、漫才と言えるかどうかということが一般人の間で議論になるというのは、実に不思議な現象だった。ただ、どこかトガッていてインディーズ臭の漂う彼らの芸風は、どうしても受け手を選ぶところがあり、その面白さを理解できない人が不満を抱いて、そのような意見を述べたのだろう。 地下お笑いのマイナーな世界で育って、メジャーなお笑いコンテストで頂点を極めた野田は、お笑い界の論客としても注目を集めており、「R-1グランプリ」「女芸人No.1決定戦 THE W」などでも審査員を務めた。 浮き沈みの激しい芸人人生を送ってきた彼は、誰よりも冷静で客観的なお笑いの語り手であり、クリエイターであり続けているのだ。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部
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