唯一無二の表現力、20世紀美術に衝撃を与えた孤高の画家「デ・キリコ展」は見逃せない! 10年ぶりの大回顧展、東京都美術館で開幕
東京・上野の東京都美術館で、「デ・キリコ展」が始まりました。歪んだ遠近法や脈絡のないモチーフの配置、幻想的な雰囲気。そんな“日常に潜む非日常”を表した「形而上絵画」の旗手として、シュルレアリスムをはじめ多くの画家に衝撃を与えた画家、デ・キリコ。本展はおよそ70年にわたる彼の画業を、世界各地から集まった100点以上の作品でその全体像に迫る、日本では10年ぶりの大回顧展です。 【画像】特権的モチーフだった人物を「マネキン」に置き換えモノとして同列に扱った。無機質だったマヌカンが徐々に人間化していくのも面白い
回顧展というと、初期から晩年まで作品を時系列に並べるのが一般的ですが、本展はデ・キリコが描いたテーマやモチーフで分かれています。初期から晩年まで描き続けた「自画像・肖像画」、その名声を高めた「形而上絵画」、伝統に回帰した「1920年代の展開」、そして晩年の「新形而上絵画」という4つの章で、彼の画風の変化も感じとれる形で展示。
デ・キリコはイタリア人の両親のもと、1888年にギリシャのヴォロスで誕生しました。 「デ・キリコは、非常に複雑な画家です。彼は1910年代に『形而上絵画』を描き始めてパリの画壇でデビューし、前衛画家として当時の一流画家の仲間入りをはたしました。ところが1919年以降は、バロックやルネサンスといった伝統的な絵画へ興味を抱き、そうしたものに影響を受けた絵画を描くようになっていきます。前衛的な側面と古典的なものへの愛好という2つの側面を常に持ち合わせ、時代によりそのどちらかが強く出て、画風も大きく変わっていきました」と、本展を担当した同館学芸員の髙城靖之さん。
■■ダリやマグリットに衝撃を与えた、初期の「形而上絵画」 デ・キリコの代名詞といえば「形而上絵画」ですが、難しくて正直ピンとこない。それでも、代表的なデ・キリコの作品は目にしたことがあるという人は多いと思います。
広場、室内、そんな現実的なモチーフを、どこか歪んだ遠近感や並ぶはずのないモチーフを隣り合わせに配置して、違和感を感じさせる。日常性を超えた非日常的なもの、神秘の謎を仄めかすようなもの。それがデ・キリコの「形而上絵画」だと髙城さんは説明します。無意識的で非日常をとらえたデ・キリコの作品は、前衛的な芸術家たちにもてはやされ、サルバドール・ダリやルネ・マグリットなどシュルレアリスムの画家たちにも影響を与えました。