「敵」が3冠! 長塚京三は〝引退〟撤回「もう少し続けてみようかな」 東京国際映画祭閉幕
第37回東京国際映画祭は6日、閉幕式と授賞式が行われ、コンペティション部門最高賞の東京グランプリに日本映画「敵」が選ばれた。「敵」は吉田大八の最優秀監督賞、主演の長塚京三の同男優賞と合わせ3冠。日本映画のグランプリ受賞は、2005年の「雪に願うこと」以来だ。 【写真】コンペティション部門で最優秀男優賞を受賞し、審査委員長のトニー・レオン(左)と笑顔で記念撮影に臨む長塚京三
19年ぶり 日本映画快挙
「敵」は筒井康隆の同名小説が原作。一軒家で淡々と日々を送る元大学教授が、老いの中で次第に意識を混乱させ「敵」が迫っているという妄想にとらわれていく姿を白黒の映像で描いた。トニー・レオン審査委員長は「老いを誠実かつユーモアを込めて描いた」と評した。 吉田監督は「規模の小さい作品だが、プロデューサーとやりたいことをやろうと取り組んだ。華々しいことになり、映画はこういうこともあるから楽しい」と喜んだ。長塚は授賞式で、「そろそろ引退かと思っていたが、もうちょっとやってみようかという気になった」とユーモアを込めてあいさつ。「敵」は25年1月公開予定。 最優秀女優賞は「トラフィック」のアナマリア・バルトロメイ。脚本、製作にルーマニアを代表するクリスティアン・ムンジウ監督が参加している。テオドラ・アナ・ミハイ監督は「クリスティアンとは長い付き合い。私は8歳半で東欧からベルギーに移住し、極右政党の『ゴミ(移民)は捨てろ』というヘイトスピーチを聞いていたことが物語の背景にある」。 最優秀芸術貢献賞は、中国映画「わが友アンドレ」。俳優のドン・ズージェンの初監督作で、「唐人街探偵」シリーズのリウ・ハオランが主演した。十数年ぶりに幼なじみと再会した主人公が、少年時代の記憶をたどっていく物語。ドン監督はリウの相手役として出演もしており、「準備をする間に、自分が出演すべきだと思った。製作費の節約になる」と明かした。リウは「映画は友情や若者の成長、家族など普遍的なテーマを描いている。日本でも公開されることと思う」と話していた。 審査員特別賞はコロンビアの「アディオス・アミーゴ」。1902年、内戦後のコロンビアで、行方不明の兄に彼の子どもができたことを知らせようとする主人公の旅を、西部劇のスタイルで描いた。イバン・D・ガオナ監督は「幼い頃、父と西部劇をよく見た。自分たちの歴史やルーツをわかりやすく伝えられると思った」とユニークなスタイルを説明した。 観客賞の「小さな私」も中国映画。イー・ヤンチェンシーが演じる脳性マヒの青年の生活を描いた。ヤン・リーナー監督は「脳性マヒの患者は世界に1700万人もいる。彼らの悩みや考えを紹介したかった」と話していた。 「アジアの未来」部門の作品賞はトルコ映画「昼のアポロン 夜のアテネ」。幽霊が見える能力を持つ女性が古代都市を訪れ、幽霊の助けを借りながら母親を探す物語。エミネ・ユルドゥルム監督は「トルコは国も映画界も家父長制が強く残る。女性が製作費を調達するのは大変だ。それでも若い女性監督が現れている。トルコには古い文化と歴史があることを敬意と共に伝えたかった」と語った。 受賞結果は以下の通り。 東京グランプリ「敵」▽審査員特別賞「アディオス・アミーゴ」▽最優秀監督賞 吉田大八「敵」▽同男優賞 長塚京三「敵」▽同女優賞 アナマリア・バルトロメイ「トラフィック」▽同芸術貢献賞 「わが友アンドレ」▽観客賞「小さな私」▽アジアの未来作品賞「昼のアポロン 夜のアテネ」
ひとシネマ編集部