“信州に夏” 車山高原のニッコウキスゲ見ごろ シカ食害から回復
こうした群生地の周囲には、5年前から一部に電気柵が設置されている。全国的な傾向の例に漏れず、一帯でも近年シカが激増しており、ニッコウキスゲもその食害に遭っているからだ。筆者は20年以上前からこの地域を度々訪れ、ちょうど電気柵が設置された5年前から定住しているが、以前に比べて「ずいぶん花が減ったな」という印象を受けていた。
定住前はシカの姿を見かけることはほとんどなかったが、今では野良猫よりも珍しくない存在だ。暖冬の影響で無事に冬を越すシカが多いことや、後継者不足でハンターが減ったことなどが数を増やしている要因とされている。農作物の被害も深刻で、車山のふもとの農村では、田畑のほとんどがネットや電気柵で囲われている。 シカは、ニッコウキスゲの株を上から蕾ごと食べてしまう。シカに齧られた株が目立って増えた2010年ごろには、絶滅の危機すら叫ばれていた。
5年越しで対策が実る
電気柵設置のほか、シカが嫌がる臭いを発する忌避剤の散布も今年から実験的に行われている。「車山ビジターセンター」では、シカの食害だけでなく、全般的な自然環境の変化が群生地縮小の要因だとしているが、こうした対策がようやく目に見える効果を発揮してきているのは確かだ。リピーターの見物客からも、「今年はだいぶ回復しているね」という声が聞かれた。
「車山ビジターセンター」の丸山真嗣さんは、「今年は柵の外側にも少し咲いています。昨年まではなかったことです」と、回復ぶりを測る。掲載の写真は、「車山肩」と「霧ヶ峰富士見台」の群生地で撮影した。いずれも群生地全体が電気柵やロープで囲われているが、こうした事情を理解したうえで、たとえ撮影の邪魔に感じたとしても、柵の内側に立ち入ったり、外に咲く花に手を触れるようなことは絶対に避けなければならない。本格的な撮影を楽しみたい方には、想定よりもやや望遠寄りのレンズを用意することをオススメしたい。