「イニング跨ぎ」と「満塁」、スペシャリストは誰?
21日に幕を閉じた第1回世界野球WBSCプレミア12、開催国として優勝が期待されていた日本代表・侍ジャパンは予選リーグを5戦全勝で突破、準々決勝ではプエルトリコに圧勝したものの、準決勝の韓国戦でまさかの逆転負け、結局3位に終わった。 韓国戦は、あと1イニングで3点リード、という圧倒的優位な状況からの敗戦となったため小久保監督の投手起用には多方面から疑問や批判の声が上がっている。具体的には、(1)7回で大谷を降板させた判断、(2)8回から登板した則本(楽天)が9回も続投したいわゆる「イニング跨ぎ」についての是非、(3)2点差の9回、無死満塁という大ピンチで松井裕(楽天)を投入した人選、という3つの采配が批判の中心だ。そしてその原因として今大会の代表メンバーに中継ぎのスペシャリストがいなかったことも挙げられている。確かに今回のメンバーには所属チームでクローザーを務める投手はいたものの、シーズンを通して中継ぎを務めた投手は1人も選ばれていなかった。 では誰を選べばよかったのか?「イニング跨ぎ」や「満塁での登板」の経験が豊富なのは誰なのか?今回はこの疑問に対して、今シーズンのデータから浮かび上がった投手を紹介することで答えてみたい。
まずはイニング跨ぎについて調査を行った。表1がその結果だ。「回数」がイニング跨ぎを行った登板の回数、「防御率」はイニング跨ぎを行った試合での防御率を計算したもの、「失敗」はイニング跨ぎで最も難しいと言われる2イニング目に失点をした回数。「成功率」は登板数に対する2イニング目に失点をしなかった登板の割合となっている。 今シーズン最もイニング跨ぎを経験した投手は、セ・リーグ覇者ヤクルトの中継ぎエース・秋吉だ。秋吉は今シーズン74登板のうち約3割に当たる22試合でイニングを跨いでいた。その結果も良好で失点は6点だけ、そのうち2イニング目に失点したのは2度だけでイニング跨ぎの成功率は90.9%だった。これは10度以上イニング跨ぎを経験した投手37人中8位に当たる数字で、質と量ともに素晴らしい結果を残した。 2イニング目に一度も失点しなかった、つまり成功率100%の投手は2人。マエストリ(オリックス)は13度のイニング跨ぎで失敗は0、3イニング目の失点が多かったため防御率は悪化してしまったが、2イニング目までは完ぺきだった。さらにヤクルトのクローザー・バーネットはイニングを跨いだ試合での失点が0。試合を締めくくる役割を担いながら、イニング跨ぎも完ぺきにこなすという、今回の則本に求められた仕事を実際に成功させていた投手だったのである。 ただこの2投手は外国人なので当然侍ジャパンには加わることができない。そこで注目されるのが成功率3位の武隈(西武)である。秋吉、バーネットと比較すると試合展開的に楽な場面の登板が多かったとはいえ、イニング跨ぎで失点した回数はわずかに1回、失点も2点だけだった。まだ実績が乏しく侍ジャパン候補という視点でみれば無名に近い選手ではあるが、イニング跨ぎに対する対応力は注目に値するものがある。代表に不足する左腕でもあり、来シーズンも結果を残せるようであればその存在が大きくなってくるのではないだろうか。