こだわりの特撮パートとアナログ特撮の未来――映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』 特撮監督・佐藤大介プロデューサー独占インタビュー!【後編】
7月26日(金)に公開された映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』の公開に先駆けて、7月18日(木)にTOHOシネマズ日比谷で完成披露上映会が行われた。完成披露上映会で司会を担当したニッポン放送アナウンサーの新行市佳が、今作の特撮監督を務めた佐藤大介プロデューサーに独占インタビューした模様を全3回に渡ってお届けする。 前編では「この作品が出来るまでの経緯やこだわり」を、中編では「撮影現場の舞台裏」についてインタビューしてきた。(前編はこちら・中編はこちら) 今回の後編では、こだわりの特撮パート、アナログ特撮の未来について迫る。
■映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』あらすじ
特殊美術造形家・時宮健三が亡くなった。 祖父である時宮の仕事にあまり良い思い出がなかった朱莉は複雑な心境でファン向けのお別れ会を訪れていた。そこには特撮ファンである同級生の卓也の姿もあった。朱莉と卓也は時宮の古い知り合いだという穂積と名乗る若い男と出会う。祖父が映画を作ろうとしていたことを初めて知る朱莉。穂積はおもむろに鞄から『神の筆』の小道具である筆を手にする。「世界の破滅を防いでください」穂積のその言葉とともに朱莉と卓也は光に包み込まれた。気づくと二人は映画『神の筆』の世界に入り込んでいた。そして映画に登場しないはずの怪獣ヤマタノオロチがこの世界のすべてを破壊し尽くそうとする光景を目の当たりにする。
元の世界に戻るため、二人は時宮が作るはずだった映画『神の筆』の秘密に迫っていくことに……。 総監督を務めたのは、「ゴジラ」シリーズや「大魔神」シリーズなどで数多くの造形を手掛けた怪獣造形のレジェンド・村瀬継蔵氏。
■アナログ特撮の未来「着ぐるみ特撮というものの可能性はまだいっぱいあると思っています」
新行:「残して伝えていく」ということにおいては、それこそ須賀川特撮アーカイブセンターや特撮のDNA展などで、実際に撮影で使われたものが展示されていますよね。その部分で何か意識されたことはありますか? 佐藤:実はそれは最初から考えていたことで、このヤマタノオロチはラテックス(天然ゴム)を一切使っていないので、腐らないんですよね。後々展示できる前提で話をしていて、形はちょっと崩れるかもしれませんが、基本的には腐ることはなくずっと残っていくものにしています。 新行:ヤマタノオロチを残すことを大前提に考えて、使う素材も考えたということですか。 佐藤:そうです。ヤマタノオロチの着ぐるみを作るのだったら、これはもう操演怪獣としてはもしかしたら最後になるかもしれないし、記録として残すべきじゃないかなというのが最初からありました。ワイヤーをつける場所も村瀬さんに指定してもらって、昔どういう風に作っていたのか思い出してもらいながらつけましたね。 新行:特撮パートで言うと、ガソリンスタンドのシーンは凄かったですね。 佐藤:ありがとうございます。ガソリンスタンドのシーンは僕がやりたくて。村瀬さんから「『カミノフデ』を手伝ってくれ」と言われたときの条件として、「特撮監督をやりますので、ガソリンスタンドだけ爆発させてください」って(笑)。僕自身が『ゴジラVSビオランテ』が非常に好きでして。中でも、ゴジラが大阪に上陸して歩いていくシーンで、ガソリンスタンドが爆発する場面が一番好きで、それをやりたかったんです。ビオランテのミニチュアは25分の1サイズなのですが、こちらは10分の1ぐらいのミニチュアになっているので、より派手な爆発になっているかと思います。 新行:個人的には、(ミニチュアの部屋の中から窓を通して外を撮影する)“内引き”で、オロチの首によって室内が壊れるシーンにグッときました。 佐藤:最近の内引きがある特撮って、あまりセットを壊さないんですよね。せっかく作り込んだのにということもあるのですが、やっぱり特撮は壊してナンボだと思いまして。 新行:至るところに佐藤さんの愛情とこだわりを感じますよね。佐藤さんはアナログ特撮の“これから”をどう考えていらっしゃいますか。 佐藤:どうなるんでしょうね。でも僕自身はCG作品とかVFX自体も好きですし、この映画も何らかのVFXは使ってはいます。ただ、着ぐるみ特撮というものの可能性はまだいっぱいあると思っています。着ぐるみ特撮は、2000年くらいを最後に、2010年代からCGになっていったのですが、カメラやVFXの技術が上がっている中で、着ぐるみ特撮と合わせたときの可能性はまだ沢山残っていると思います。より洗練された着ぐるみ特撮というのは、CGとは違う、CGのキャラクターとはまた別のベクトルで生きていくんじゃないかなと。 新行:最後に、これから『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』をご覧になる方へのメッセージをお願いできますか。 佐藤:着ぐるみや操演など昔の技術をたくさん盛り込んでいますが、『カミノフデ』はそれを現代の技術に助けてもらいながら形にした作品です。造形物が持つ存在感を映画から感じてほしいなと思っています。特殊造形の人たちが作った映画としても見てほしいし、それだけでなく、それを知らない人たちが見て楽しめるような映画にはなっていますので、是非多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。 かつて怪獣映画に夢中になっていた世代には懐かしくあの頃を思い出すような作品であり、アナログ特撮の世界を初めて体感する世代にとっては新鮮に感じられる本作。スクリーンいっぱいに映し出される怪獣たちと冒険物語はこの夏の必需品だ。