急転、第三世代の超厚底シューズ「アルファフライ」も使用OKで東京五輪はナイキ一色に染まる?!
日本陸連の横川浩会長も、「世界陸連が専門家で構成されるワーキンググループを立ち上げ、あらゆる角度からの検証と協議を進めてきた結果、発表のルール改定に至った事は評価に値すると感じています」とコメント。世界陸連のジャッジに好印象を持っている人は多いかもしれないが、新ルールが導入されることで様々な影響が予想される。 最も懸念されるのは、「レースの4カ月前から一般購入できること(医学的理由などでカスタマイズされたものは許可される)」という新規則だろう。 主要メーカーはオリンピックに向かう選手たちに最高のモデルを提供しようと、本番から逆算するかたちでシューズを仕上げている。これまでの流れでいえば、オリンピックと同時期か少し後に、一般発売するような最新モデルを契約している選手たちに渡してきた。 しかし、東京五輪は、4か月前に一般販売しているモデルでないと本番では使用できない。これは陸上競技のシューズすべてに適用される。マラソンは男子が8月9日で、女子が同8日。陸上競技は7月31日にスタートする。本番で使用することを考えると、各メーカーは3月末~4月上旬に一般発売しないといけない。 東京五輪トライアルとなる日本選手権は6月下旬(25~28日)に開催されるが、ここに合わせるなら2月下旬がタイムリミットだ。時間はほとんど残されていない。代表的な例でいうと、桐生祥秀(日本生命)が昨季から使用しているアシックスのスパイクはピンがついていないモデルで、まだ一般発売はされていない。東京五輪のメダル候補である戸邉直人(JAL)はプーマとグローバル契約をしているが、プーマの走り高跳び用スパイクもまだ一般発売はしていない。契約選手に最新モデルを提供するために、各メーカーは大慌てとなるだろう。
ナイキが厚底シューズの開発をスタートしたのは2013年夏。2016年のリオ五輪では、金メダルを獲得したキプチョゲら有力選手がプロトタイプ(試作品)を着用したが、ファーストモデルといえる『ズーム ヴェイパーフライ 4%』が一般発売されたのは2017年7月だ。開発から一般発売まで約4年という月日を費やしている。 プロトタイプができているからといって、商品を大量生産して、店頭に並べるという作業はすぐにできるものではない。今回の新規則は各メーカーの営業計画に大きな影響を及ぼす。世界陸連に損害賠償を求めるメーカーが出てもおかしくない。 また海外では多くないが、国内には、有森裕子、高橋尚子、野口みずきという五輪メダリストに別注シューズを提供してきた三村仁司氏(現在はニューバランス)のようなシューズ職人がいる。先日行われた大阪国際女子マラソンで日本歴代6位の2時間21分47秒をマークして、日本陸連の設定記録を突破した松田瑞生(ダイハツ)も三村氏が手掛けた別注シューズを履いていた。松田は外反母趾を抱えているため、医療目的ともいえるが、それ以外の調整もしているはず。カスタマイズがどこまで許されるのか。現時点ではハッキリしていない。 昨年10月の非公認レースでキプチョゲが人類初の2時間切りを果たした際に着用していた超厚底シューズも東京五輪では使用できないという報道が多かった。しかし、ナイキは正式に新モデル『エア ズーム アルファフライ ネクスト%』を発表した。カーボンファイバープレートが3枚搭載されているという噂だったが、実際のものは、カーボンファイバープレートは1枚で、靴底の厚さも39.5ミリ。世界陸連の新ルールにも抵触しない。 前モデルとの一番の違いは前足部に「ズーム エア」を採用したことだ。少し重くなったものの、エネルギーリターンはさらに高まったという。価格は未定だが、日本でも春には販売される予定。東京五輪で使用できる見込みだ。それどころか3月1日の東京マラソンで大迫傑、設楽悠太ら契約ランナーが着用する可能性は高い。 昨年9月に行われたマラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)では、男子の出場30人のうち16人が、『ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%』を着用。上位10人中8人が同シューズを履いていた。加えて、2018年のジャカルタ・アジア大会の男子マラソンで金メダルを獲得した井上大仁(MHPS)もMGC後にナイキの厚底シューズにチェンジ。国内の有力選手はナイキ派が大半を占めている。 世界陸連は市場に参入する新シューズを調査・監視していくことも発表しており、今後は新たなテクノロジーを導入したシューズに厳しい目が向けられることになる。大迫、設楽らはナイキと契約しているが、彼らは市販されているシューズを着用している。新ルールが適用されると、別注シューズをウリにしているメーカーは有力選手へのアプローチ(商品提供)が難しくなるだろう。 五輪ランナーたちは4月上旬時点での“最速シューズ“を選ぶのが自然な流れだ。ケニア代表には厚底シューズの開発に協力してきたキプチョゲが選ばれている。札幌で開催される東京五輪のマラソンはナイキ一色に染まると見ていいだろう。 (文責・酒井政人/スポーツライター)