<レスリング>元世界女王、山本美憂の長男アーセン、遠くなったリオ五輪
西口茂樹・グレコ強化委員長は「負けることを必要以上に怖がってはダメ」とアーセンがもう一段階、成長して大人の選手として目覚めるよう呼びかけている。 「本来はとても負けず嫌いな選手。なのに、カデット世界選手権で優勝してからは負けることを必要以上に怖がり始めた。今回も、負けないようにと攻撃が不完全な試合ばかり。彼が普段暮らしている欧州の選手は、勝ったり負けたりが続くことを何とも思っていない。負けることも計画のうちだからだ。ポテンシャルはとても高いし、興味を持ったときの集中力は驚異的。あとは、負けることを怖がらなくなったら選手として大人に成長するので、五輪も具体的に見えてくるでしょう」 ディフェンス(防御)には課題が多いが、オフェンス(攻撃)を評価する声は大きい。また過剰なメディアのマークに同情する声も聞こえてくる。しかしアーセンは、それを言い訳にしない。表彰式が終わるとようやく落ち着いて話せるようになったアーセンだったが、いつもの饒舌さは消し飛ばされていた。「もう一度、試合をしたかった。俺が勝つはずだったのに」。少年らしい潔さは魅力的だが、今回のJOC杯で優勝を逃したため来年に迫るリオ五輪へ出場するためには、技術の成長だけでなく強運も必要な状況となった。 2016年のリオ五輪日本代表になるための最短ルートは、今年9月の世界選手権で3位以内に入賞したあと、12月の全日本選手権に出場して五輪代表の内定を得ること。その世界選手権代表となるには、6月の明治杯全日本選抜選手権で優勝し、プレーオフも制して日本代表にならねばならない。ジュニア選手は、JOC杯で優勝しなければ大会への出場資格が得られないため、アーセンは、その明治杯へ出場できなくなった。 限りなくリオ五輪出場への可能性は薄くなったが、他力本願ながら可能性は残っている。今年の日本代表が世界7位までに入れなかった場合、五輪代表選考が再び始まり、12月の全日本選手権で2位以内に入った選手が、五輪出場をかけて世界予選で戦うことになる。この12月に選考される日本代表に選ばれれば、リオ五輪出場の可能性は繋がる。その12月の全日本選手権へ出場するには、協会が指定する大会で一定以上の成績をおさめねばならない。アーセンのように外国在住の選手は不利になるが、過去、米国在住の選手が全日本や全日本選抜へ推薦によって出場する機会はあった。海外の大会で結果を残せば推薦される可能性がある。 「まさか、親子で一緒に五輪を目指せるなんて思ってもいなかった」と美憂がいうように、母と息子が同じタイミングで五輪出場を狙える時間は、あまり残っていない。注目を集めている分、弱点の洗い出しは多くの人がしてくれ、改善点は明確だ。リオ五輪出場の可能性は薄くなったが、本来は、次の東京五輪をターゲットにしている選手。多くの人がアーセンが大人の選手として目覚めるのを待っている。 (文責・横森綾/フリーライター)