<レスリング>元世界女王、山本美憂の長男アーセン、遠くなったリオ五輪
レスリングのJOCジュニアオリンピック杯が26日、横浜文化体育館で行われ、グレコローマンの男子66キロ級に山本美憂(40)の長男、山本アーセン(18)が出場したが、準決勝で沢田夢有人に3分かからず0-8のテクニカルフォールで敗れて3位に終わった。 グランド技を4回連続して決められ試合終了のホイッスルが鳴ると、アーセンは呆然としたまま勝者コールに立ち会った。マットを降りると涙があふれた。セコンドについた母の美憂とともに控え室に入ると「ごめんね。ごめんね」とアーセンは繰り返したという。美憂は、謝られたことが母としてとても悲しかったと振り返った。 「私には理解できないくらいプレッシャーがあったんだろうな、つらかったんだろうな、謝らなくていいよ、もっと自分のことを中心に考えていいんだよと思ったらたまらなくなった。でも、私もまだ現役選手。選手としては違った思いもわいてしまう。負けたのは褒められることじゃないけれど、負けは何が足りなかったのかを知るいい機会。そこを受け止めて、次、勝てばいいんだからと思ってしまう」 アーセンが注目を集めているのは、3度、世界王者となった母、美憂をはじめとした格闘技エリート一家の系譜に連なるからだ。叔父は、格闘家の山本KID徳郁、叔母はダルビッシュ有との交際宣言で話題になった元女子レスリング世界女王の山本聖子、祖父はミュンヘン五輪代表の山本郁栄。 アーセン自身の経歴も華やかで全国少年選手権では表彰台の常連。13歳で単身、ハンガリーへ渡ってグレコの技術を学び、一昨年には、カデット(15~16歳)世界選手権で優勝した。さらにアーセン本人が「リオデジャネイロ五輪を目指します」と宣言し、母の美憂もカナダ国籍を取得してカナダから同じリオ五輪を目指すと判明したのだからメディアが殺到したのも無理はなかった。 ところが優勝候補筆頭だったはずのアーセンは不本意な内容で敗れた。 「最後まで得意技が出ませんでしたね」というのは、複数のグレコ関係者から聞こえてきた感想だ。カデット世界選手権で優勝した一昨年は、「ツー・オン・ワン」と呼ばれる両手で相手の片腕の上腕と手首をとり崩していく形から素早い胴タックルに入りポイントを重ねていた。ところが今回は、腕取りはするものの、そこから先の動作への移行がまったく見られなかった。 もう一つ指摘されていたのは、東アジアのグレコ特有の動きに慣れておらず、必要以上に警戒していたのではないかという点だ。日本では、年少期にグレコを学ぶ機会が少なく「ちびっ子レスリング」といえばフリースタイルだ。一方、欧州では、年少期からフリーとグレコに分かれており、日本のように途中から転向するケースはあまりない。こういった環境の違いから、韓国や日本など東アジアの選手と欧州の選手は試合運びが大きく異なるため、戸惑いがあったのではないか。