最新作『トラップ』でシャマランが描こうとしている“新たな神話”とは?
M・ナイト・シャマラン監督の最新作『トラップ』が10月25日(金) から公開される。本作はシャマラン監督の集大成的な映画であり、繰り返し観ることで新たな発見がある作品だ。 『トラップ』場面写真 本作の主人公クーパーは、これまでのスリラー、サスペンス映画に登場する悪役や犯罪者とは違った魅力のあるキャラクターだ。彼は恐ろしい男で、自分のアジトに男を監禁している切り裂き魔だが、見るからに邪悪そうな表情を浮かべることもなければ、ステレオタイプな犯人像を見せることもない。見た目は穏やかな“家族を愛する消防士の男性”だ。しかし、その内面に異なる一面を抱えている。 クーパーを演じたジョシュ・ハートネットは「この映画はこのキャラクターの視点を中心に作られていて、このキャラクターのコンセプトはナイトが執念を持って探求したものなんだ。だからクーパーをできるだけ魅力的に、奥深いキャラクターにしなければならなかった。演じるのはとても難しいが面白いキャラクターだ。描き方が一方に偏ってしまうと、観客からの好意を失いかねないし、あるいは、危険な緊張感を失いかねない。本当に綱渡りのような繊細なバランス感覚での演技が必要だった」と振り返る。 これまで様々な物語で繰り返し犯罪者が描かれてきた。切り裂き魔も出てきた。でも、クーパーは何かが違う。見たことがない。シャマラン映画はいつもヒーローやドラマの“定型”をアレンジしてまったく新しいドラマを描く。かつて彼は筆者とのインタビューでこう語った。 「私の作品には特徴があります。それはすでに存在する超現実的な神話の上で、さらに自分の考えた新しい超現実的な神話を語ることです。エイリアンやゴーストやヴァンパイアは、劇場に来る前から観客が知っている神話ですよね? 私はその上で、さらに新しい神話を作り出して語りたいのです」 シャマラン映画はいつも“すでにある定型”に“観たことのない中身”を盛り込む。本作では“優しいお父さん”に“恐ろしい切り裂き魔”が潜んでおり、物語が進んでいくと彼は“親子関係に何かしらの過去を抱えた子”であることが見えてくる。 クーパーは主人公であって、犯罪者として分析したり探究される対象であって、最後には「これはシリーズ化もあるのか?」と思ってしまうようなダークヒーローでもある。この主人公像の探究、シャマランが描こうとしている“新たな神話”を見つけ出すことが、『トラップ』をより深く楽しむポイントではないだろうか。 <作品情報> 『トラップ』 10月25日(金) 公開