<春風を待つ・センバツ宇治山田商>16年ぶり出場への軌跡 敗北の悔しさ糧に 自主性重視「みんなが主役」 /三重
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に宇治山田商(伊勢市)が16年ぶりに出場する。村田治樹監督が「特に秀でている選手がいるわけではない」と語るチームだが、春切符をつかむまでどう力をつけたのか。センバツまでの軌跡を振り返る。【原諒馬】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 「県大会出場すら、やばい」――。チームは東海大会出場など考えられないほど困難な滑り出しだった。8月の県大会南地区1次予選3回戦で、皇学館に1―6で敗退。レギュラーや投手の軸が決まらないまま地区予選に突入し、連係不足が露呈した。 悔しさは、身にしみていたはずだった。昨夏の三重大会決勝で、いなべ総合に1点差で敗れた。甲子園への出場を逃し、悔し涙を流す先輩を見ていたからだ。 力不足を突きつけられた選手たちは、目の色が変わった。南地区予選は1~3次まであり、上位8校が県大会に進む。宇治山田商は1次予選で敗北し、2次予選に回った。1点をもぎとるため、単打や犠打でしぶとくつなぐ試合のイメージを明確にした。村田監督は「悔しさを忘れたらあかん」と言い続けながら、「ボテボテの球でもええんや、最高」と選手らの背中を押した。 「みんなが主役になって、プレーする」。それが自主性を大切にする宇治山田商のモットーだと主将の伊藤大惺(2年)は言う。守備練習では選手がメニューを考案。打撃でも、選手の判断を尊重する。練習のない月曜日には自主的に選手が集まり、練習量を増やした。 勝ち上がるにつれて投打がかみ合い、チームは県大会1位で東海大会出場を決めた。昨夏の三重大会でも主力だった伊藤には「次こそ必ず甲子園に行って、みんなに恩返しがしたい」との自信も出てきた。 10月の東海大会の中京(岐阜)戦。八回表に宇治山田商が加点したが、その裏で中京も食らいついて1点差。九回表、伊藤はベンチから「まだ点取れるよ」と声を出した。その言葉に応えるように下位打線の4連打で突き放し、その裏も守り切って4強入りした。 準決勝は豊川に5―6でサヨナラ負けしたが、それも今では前向きに捉えている。試合直後、「精神の強さが足りない」と涙を流していたリリーフの田中燿太(2年)は、練習でも常に厳しい状況に置かれていることを意識しながら投球するようになったといい、「貴重な経験だった」と語る。 センバツ出場校を決める選考委員会があった1月26日。江崎徹校長から出場決定を告げられた選手の間からは、お互いの努力をたたえ合うように、拍手が自然にわいた。昨年8月、予選で敗北し、先行きの不安にかられたチームは変化を遂げていた。村田監督は「ここまで成長したことは正直驚いた。あきらめずに頑張ってくれたことが大きい」と語る。 ◇ センバツの夢舞台まで1カ月半。宇治山田商の選手や地域で支える人たちの「春風を待つ」姿を伝えます。=随時掲載 〔三重版〕