【冨安健洋・分析コラム】対人で負け続けても…。アーセナルの起用は絶対的に正しかった。その理由とは?
プレミアリーグ第35節、トッテナム対アーセナルが現地時間28日に行われ、2-3でアウェイチームが勝利を収めた。この試合で冨安健洋は左SBで先発出場。試合後のデータサイトでは失点に絡んだ選手よりも低い評価をつけられたが、この評価通り、厳しいパフォーマンスだったのだろうか。(文:安洋一郎)
●ライバルに勝利したアーセナルが優勝争いに生き残る 2023/24シーズンのプレミアリーグも佳境に迫っている。今回のノースロンドンダービーはトッテナムとアーセナルのみならず、優勝争い、そしてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いにおいて極めて重要な一戦となった。 結果は3-2でアウェイのアーセナルが勝利。ライバルとの激戦を制したミケル・アルテタ監督のチームが王者マンチェスター・シティとの優勝戦線に生き残った。 この一戦でアーセナルの冨安健洋は左SBでスタメン出場を飾っている。指揮官の期待に応えた日本代表DFは勝利に貢献した。 その一方で彼の個人スタッツに目を向けると、低い評価を受けている。データサイト『Sofa Score』のレーティングでは、64分に失点に直結するミスを犯したGKのダビド・ラヤよりも低い「5.9」に留まった。これは途中出場の選手を含めて両チームワーストの評価である。 果たして冨安はこの評価通り、厳しいパフォーマンスだったのだろうか。 ●データ上で冨安健洋の評価が伸び悩んだ理由 冨安は1月に行われたアジアカップ以降負傷離脱が続いていたが、3月末に行われたマンチェスター・シティ戦で復帰。4月17日に行われたバイエルン・ミュンヘンとのUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝2ndレグで昨年11月以来のスタメン出場を果たしていた。 今週のミッドウィークに行われたチェルシー戦でも先発メンバーに名を連ねた冨安だが、そのコンディションはベストではないだろう。バイエルン戦ではレロイ・ザネ、チェルシー戦ではノニ・マドゥエケ相手に止めたシーンもあったが、その一方で簡単に振り切られるシーンも散見された。 実際に今節も右WGで先発出場したデヤン・クルゼフスキと後半途中からそのポジションに入ったブレナン・ジョンソンに1対1で苦戦。試合のトータルで見ると地上戦は8戦1勝とほぼ勝てず、クルゼフスキが右WGでプレーしていた64分までは6戦全敗だった。空中戦でも2戦0勝に終わり、デュエルの局面での苦戦が「5.9」というワースト評価につながったと考えられる。 彼らに簡単に突破を許したことを踏まえても調子は良くないのだろう。 それでもアルテタ監督がオレクサンドル・ジンチェンコやヤクブ・キヴィオルではなく日本代表DFを起用したのは意図がある。それは冨安の方が“序列が高いから”などの抽象的なものではなく、対トッテナムを踏まえての人選だった。 ●アルテタ監督が冨安健洋を起用した意図と成果 トッテナムを率いるアンジェ・ポステコグルー監督のチームは、相手チームの状況や自チームの怪我人などのスカッド状況に関係なく、明確な自分たちの「型」を持っている。これは選手たちの共有力が上がれば上がるほど強さを発揮する一方で、相手チームからすると対策を講じやすい。 その対策の一環として、アルテタ監督は冨安を左SBとして起用したと考えられる。というのも、ポステコグルーのチームはボールをサイドに展開した際にアーリークロスを狙う傾向にあり、スペースを埋めつつマークしている選手にも堅実な対応ができる日本代表DFの抜擢は理にかなったものだった。 指揮官の狙いはピタリとハマる。この試合のアーセナルはいつも以上にクロス対応が抜群だった。最終ラインと中盤がスペースを空けることなく、周りの状況を見ながら適切な立ち位置に立つことでトッテナムのクロスを跳ね返し続けた。 確かに冨安は1対1の局面で抜かれてしまう場面もあったが、サッカーは個人の勝負ではなくチームで戦うスポーツだ。もちろん1対1で勝つことに越したことはないが、チームとしては「クロス対応」を最重要視した守り方を徹底しており、相手にクロスを上げられる行為そのものは致命傷にならない。 むしろ1対1で完璧な守備対応をすることよりも、逆サイドからのクロスに対してボールウォッチャーにならずに対応することの方が優先度としては高く、個人よりもチーム全体の構造を踏まえると冨安の起用は絶対的に正解だったと言える。 スタッツを見ると、トッテナムはコーナーキックをはじめとするセットプレーを含めて34本のクロスを上げているが、それが通ったのはたったの4本。オープンプレーに限定することほとんどクロスからチャンスを作らせなかった。失点シーンもラヤの個人的なミスとPKであり、現に流れの中からは1本も枠内シュートを許していない。 最後はホームサポーターの圧力もあって押されたアーセナルだが、しっかりとトッテナムのクロスを跳ね返して勝利を飾った。指揮官の準備とその期待に応えた選手たちが勝ち取ったこの勝利の勢いそのままに、最後まで王者マンチェスター・シティと優勝争いを演じられるだろうか。 (文:安洋一郎)
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