ステランティスの電動化戦略のカギ 「フィアット600e」と「ジープ・アベンジャー」を見比べる
「eCMP2」プラットフォームを使用する兄弟BEV
ステランティス ジャパンから、前後して2台のBセグメント電気自動車(BEV)が日本に導入された。「フィアット600e」と「ジープ・アベンジャー」の両モデルである。 【写真】こう見えて実は電気自動車の兄弟モデル。フィアット600eとジープ・アベンジャーの写真をもっと詳しく見る(16枚) ステランティスは2021年、4タイプのBEV専用プラットフォームを開発し、拡張性を持った3タイプのEDM(エレクトリック・ドライブ・モジュール)と合わせ、すべてのブランドとセグメントにおいて、ベスト・イン・クラスのBEVを提供するという中期目標を掲げた。そのなかでも特に需要の高いBセグメントでいかに魅力的なモデルを投入してくるのかは、大いに大いに注目されるところだった。 600eとアベンジャーは、いずれも「eCMP2」プラットフォームを使用する、いわば兄弟車だ。運転席下と後席下に分けて搭載されるバッテリーの容量は両モデル共通の54kWh。前輪を駆動するエレクトリックモーターの最高出力は156PS、最大トルクは270N・mと、こちらも変わらない。 一充電での走行距離は、WLTCモードで600eが493km、アベンジャーは485kmというほとんど誤差の範囲内に収まる数字。ということになれば、あとはブランドの独自性がどのように演出されているのかが、ユーザーサイドでは興味の対象ということになるのだろう。今回はドライブした印象を含め、両モデルがステランティスという巨大グループ内でどうブランディングされ、どう差異化されているのかを解説していこうと思う。 まずステアリングを握ったのはフィアット600e。そのコンセプトは先に登場したAセグメントのBEV「500e」に、さらに100個の魅力を追加する「500+100」にあるという。
フィアット600eに漂う独自の世界観
600eのボディーサイズは全長×全幅×全高=4200×1780×1595mmと、日本の市街地で使うことにもほとんどストレスを感じさせないものだ。ヘッドランプの上部にボディーと同色のカバーが備わるため、どことなく眠たげな印象を与えるフロントマスクだが、これもまたフィアットというイタリアンブランドの楽しさでもある。 一方で、そのシルエットからも想像できるように、600eのパッケージングはとても真面目だ。キャビンスペースには十分な余裕が感じられ、さらにラゲッジルームの容量は360リッターと、Bセグメントモデル最大を主張する。 156PSの最高出力を発生するエレクトリックモーターは、1580kgの車重には必要にして十分な性能だ。600eには、「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3種類のドライブモードが設定されている。さらにシフトセレクタースイッチで通常走行の「D」と、回生ブレーキが強くなる「B」を簡単に切り替えることが可能だ。そのメリハリのある制御は、極端すぎる減速感がない好感の持てるものだった。 600eの走りで最も魅力的だったのはその乗り心地だ。ワインディングロードではいかにもコンパクトなイタリア車らしい俊敏さを披露しながら、高速走行時には高級感のあるライド感を演出。ハンドリングと乗り心地のバランス感覚に優れた足まわりは、快適の一言につきる。 フィアットブランドとしては初採用となる、ACC使用時のレーンポジションアシスト機能の制御も良好だ。日常の足のみならず、航続距離を気にする必要はあるもののロングドライブも楽しめるBセグメントBEVである。こうしたBEVの特徴的な走りと“いかにもフィアット”な世界観が、600eを所有する喜びにつながりそうだ。