鎌ケ谷市は基準値の240倍、摂津市は420倍…飲んだら危険!「全国『水質』汚染マップ」の衝撃数値
日本の水が発がん性物質『PFAS』により危機に瀕している。 各地で国の目標値を大きく超える数値が検出されているのだ。 専門家や自治体などを総力取材し戦慄の実態をレポートする。
「永遠の化学物質」と呼ばれ、発がん性のある有機フッ素化合物『PFAS(ピーファス)』が全国的な社会問題になっている。日本各地の水を汚染しているのだ。 【あなたの住む町は…】発がん性物質が!? 全国危険な51地点「水質汚染マップ」 千葉県鎌ケ谷市の地下水からは国の目標値の240倍、大阪府摂津市の地下水では420倍……。PFASが大量に検出された危険な51の地点を一覧にしたのが下のマップだ。鎌ケ谷市軽井沢地区に住む住民が、心配そうに話す。 「家の井戸は30mぐらい掘ってあります。このあたりでは多くの人が生まれてからずっと井戸水を飲み、風呂や畑の水にも使っている。高い濃度の有害物質が検出されたと聞き、健康に不安を感じます」 PFASはフライパンのフッ素樹脂加工、防水スプレー、泡消火剤など幅広い用途に使われている。1949年以降に米国で開発され、1万種類以上が存在する生活に密着した化学物質だが、人体に取り込まれると健康に多くの影響が出るとされる。PFAS問題に詳しい、京都大学名誉教授の小泉昭夫氏が説明する。 「身体に入ると長期間体内に留まり、95%が排出されるまで40年かかるものもあります。肝臓や腎臓に蓄積することで健康に悪影響が出るのです。PFASのうち『PFOA』と『PFOS』という2種類には有害性が指摘されています。世界保健機関(WHO)は昨年12月、PFOAを『ヒトに発がん性がある』、PFOSを『ヒトに発がん性の可能性がある』と位置付けました。十分な証拠のある健康への悪影響としては四つ考えられます。①ワクチンが効きづらくなるなど抗体反応の低下、②脂質異常症、③乳児や胎児の成長低下、④腎臓がんリスクの増加です」 PFASが体内に取り込まれている事実も明らかになっている。『大阪PFAS汚染と健康を考える会』は、昨年9月から大阪府民ら1190人の血液検査を実施。同会の長岡ゆりこ氏が説明する。 「現在までに結果が判明した459人のPFOAとPFOSを合計した平均値は、1mL当たり14.9ng(ナノグラム。1gの10億分の1の重さ)。最大で605.1ngでした。居住場所ごとでは摂津市の住民が最も高い。4種類のPFASの合計値が20ng以上だと健康被害が大きいと判断しますが、被験者の3割が超過しています」 ◆「自衛隊や米軍施設から」 毒性が明らかになり、政府は’21年までにPFOAとPFOSの製造と輸入を禁止。両物質を合わせ、1L当たり50ngを暫定(ざんてい)目標値とした。今年6月に内閣府食品安全委員会がまとめたPFASの評価書でも、「出生児に低体重などの影響が認められる」と健康への警鐘を鳴らしている。だが、前述の通り河川や地下水の深刻な汚染が次々に確認されているのだ。小泉氏が続ける。 「原因は、大きく二つ考えられます。自衛隊や米軍施設から、PFASを含む泡消火剤が漏れ出て汚染が発生。もう一つは、工場などの産業利用による排出および産廃処分場からの漏出です」 千葉県柏市などによる3月の調査で、海上自衛隊下総航空基地(柏市)周辺の複数箇所で1L当たり1000ngを測定。県によると、同基地は過去に5140Lの泡消火剤を保有していたという。柏市などは住民に井戸水を飲まないよう要請し、同基地には調査協力を申し入れている。 普天間や嘉手納など軍事飛行場周辺の井戸などから高い汚染が確認されている沖縄県も、米軍施設が原因の可能性が高いとみている。県の担当者が話す。 「基地内には消火訓練を行う施設があります。訓練時に放出されたPFASが地中に残っているのではないかと考えています。米軍に立ち入り検査への協力を求めても反応がありません」(環境保全課) 代表的な大阪府摂津市のケースでは、ダイキン工業の淀川製作所がクローズアップされた。同社は’12年までPFOAを製造。水路や地下水から暫定値を上回る値が検出されていることに関し「当社が原因の一つ」(同社)と判断し、工場敷地内にある地下水の外部漏洩(ろうえい)を防ぐ遮水壁の設置などの取り組みを実施中だ。 前出の小泉氏は、調査しきれていない汚染地帯も多くあると指摘する。 「過去に泡消火剤を使用したり、PFASを製造工程に使用していた工場がある地域は要注意です。できることは汚染地帯の井戸水を飲まず、専門機関で血液検査を受けること。そもそも日本の暫定目標値は欧米諸国に比べて緩い。放置していた政府には大きな責任があります」 生活するうえで欠かせない水……。高濃度汚染の衝撃は計り知れない。 『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より 取材・文:形山昌由(ジャーナリスト)
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