広島・エルドレッドはなぜ覚醒したのか
広島カープの快進撃が続いているが、その赤ヘル打線の象徴が、4番のブラッド・エルドレッドだ。打率.347、12本塁打、39打点。打点はセ・リーグトップ、本塁打もバレンティンに抜かれて現在は、2位となっているが、一時、3冠だった。パイレーツ時代に4番を打った経験もあるが、メジャーでの実績は、ほとんどなく(通算本塁打は15本)、2012年のシーズン途中に広島に入団すると、その年は、65試合で11本塁打を放つが、昨年は、4月に巨人の菅野の死球で骨折して戦線離脱。その後も成績が低迷したが、クライマックスシリーズに向けては、調子を上げて、最終的には、66試合で打率.247、13本塁打、32打点の不完全燃焼の結果で終わった。 首筋の涼しかった助っ人は、なぜ覚醒したのか。昨年オフにフロントは、野村監督にエルドレッドの去就についての相談をしている。契約も切れ、そのまま、再契約は見送りましょうか?」の打診である。一塁にはキラがいて、エルドレッドのレフト守備は危なっかしく、守備固めの選手が一人必要になる。それにしては打撃は物足りない。それでも野村監督は「もう1年だけ残して欲しい」と応えた。春先は骨折で出遅れたが、「慣れれば絶対に日本野球に対応できる。なにしろ、これだけまじめに懸命な姿でプレーする外国人選手は珍しい」という野村監督なりの確信があったのである。野村監督は、ほぼマンツーマンに近い形でエルドレッドの改造に着手した。洗脳をかけたのは、ボールの見極めについてである。内角の低め、外角の低めというウイークポイントのボールに手を出さないことを徹底したのだ。選球眼という部分を意識すると、自然と、ヒッティングポイントが近くなる。そのことが、広角打法による高打率と、本塁打の量産につながっている。 阪神DCで評論家の掛布雅之氏は、エルドレッドの変化をこう分析している。「ポイントが近くなったと思う。おそらく日本人の攻略法がわかったのだろう。ボールを長く見たほうが有利に決まっていて、そのことで外の変化球を我慢できるようになってきた。逆に内角のボールは腕を縮ませて、コンパクトに体の回転を使って打つことができている。窮屈なバッティングと言えばいいのか。ある意味、それは内角をさばくための理想のバッティングフォーム。パワーがあるため窮屈に打っても打球は飛ぶ」。エルドレッド自身は、フォーム改造に取り組んだわけではなかったらしいが、ボールを引きつけてよく見るという意識が、理想的な内角攻略打法につながったのだ。