舞台裏に潜入 尾上右近が案内する新開場10周年の歌舞伎座
■プロの技が光る『揚幕』
鳥屋から花道へ出て行くときに開く幕は『揚幕(あげまく)』と言われ、黒または紺地の布が、カーテンのように金輪でつり下げられています。勢いよく開け閉めすることで“チャリン”という音がする仕組みになっています。
今回、その『揚幕』を開け閉めする揚幕係の溝川公平さんにもお話を伺うことができました。右近さんによると、揚幕係は、役者が舞台に出ていく直前の顔を一番見ている人。溝川さんは「一番緊張感のある一瞬を見させていただいております」と話していました。『揚幕』の開け方にはポイントがあるそうで、客席に自分の姿が見えないよう、カーテンに巻かれるような形で開けるそうです。溝川さんは「お客様は役者さんだけを見たいと思うので世界観を壊さないように、できるだけ黒衣のつもりでやっています」と明かしていました。
■歌舞伎ならではの舞台機構『花道』
『花道(はなみち)』は舞台に向かって左側にあり、舞台と同じ高さで客席を貫く通路になっています。18世紀はじめにできたといわれ、人物の登場などに使用されます。また、舞台から三分、『揚幕』から七分のところを七三(しちさん)と呼び、役者が見得(みえ)を切る主な位置となっています。
今回特別に花道を歩いた市來アナは、「とにかく神聖な場所で緊張しました。お客さんの顔もしっかり見えそうなぐらい客席との距離がすごく近い」と役者側の目線を体験。右近さんも「お客さんの顔は、ばりばり見えますよ! 知っている人は3Dのように浮いて見えるので、どういうふうに見ているのかこちらもしっかり見ています」と話していました。 特に市來アナが驚いたと言うのが、『花道』の幅。「これまで見てきた歌舞伎の演目で、殺陣や宙返りする“とんぼ”の演技などが、この『花道』で行われていたことを思うと、かなり狭く感じました」とコメントしました。
■市來アナの取材後記 ―歌舞伎座舞台裏ツアーを終えて
今回、見させていただいた場所はなかなか入れる場所ではないので、緊張と新鮮さでいっぱいでした。全てに魂が宿っているような気がして、今後客席から見るときに、より歌舞伎の魅力を感じられる気がしました。右近さんは「僕らも『奈落』に特別な空気感があるのは感じます。“表”と“裏”を一番象徴する空間が、この『奈落』だと思うので、舞台の上でドンって足を踏んでいるのを『奈落』で聞くと、“今この人、ここで生きているんだな”って、違う時間軸の過ごし方を感じながら花道に出て行くことがある」とお話しされていました。 現在、吉例顔見世大歌舞伎にて夜の部『三社祭』(11月25日まで上演)に出演中の右近さん。来年1月の『壽 初春大歌舞伎』にも出演されることが発表されています。上演中、役者さんの演技を楽しむのはもちろん、どのように舞台が使われているのか、歌舞伎座での観劇必見です。