短期的には中国政府の完勝でも「終わりではない」香港デモ 立教大学准教授・倉田徹
「We will be back」のスローガン
しかし、事態はそう単純でもなさそうです。一つの妥協もしなかったことは政府の完全勝利にも見えますが、実際は政府が何一つ学生側の不満に対して回答できていないとも言えます。民主化問題のみならず、大陸への香港市民の感情的反発、香港内部の若者の将来不安など、デモを拡大させた背景要因とされる問題の解決の糸口すら、政府は示すことができていません。 こうした情勢の中、香港政府は年明けにも北京の許す範囲での行政長官普通選挙、即ち事実上候補者を事前に北京よりの者だけに限定した2017年実施予定の普通選挙の方法案を作成して、法律改正を行うための諮問を開始し、来年上半期中に立法会に法案を提出して採決を目指します。 当然ながら、このような「ニセ普通選挙」を批判してきた学生や民主派は、これを黙って見ているとは考えられません。強制排除の直前に、占拠された地域で「We will be back」とのスローガンが至る所に見られたことが示すように、選挙方法の検討が続く間、再度学生や市民が街頭に繰り出し、大規模なデモや衝突が発生する危険は残り続けます。警察は、早ければクリスマスイブや大晦日などで人が集まると、大規模なデモが自然発生するかもしれないと警戒しており、名物の年越しカウントダウンイベントを中止にした商業施設もあります。
香港デモの歴史的意義は?
中央政府は今回の占拠を受けて対策の重要性を再認識し、当面の間は若者の社会的・経済的な上昇の機会を増やすことと、教育を通じて愛国心を育てることによって、民主化要求を緩和させようと考えていると最近ではよく報じられます。しかし、2003年以来実施してきた、経済で香港市民の人心を買う中央政府の政策がうまく行かず、2012年には愛国教育を導入しようとして大反発を受けたことが、今回のデモの伏線となっていることは周知の事実であり、同じ方向性の政策を続けていくことが問題解決につながるとは到底見込めません。