諦めてほしくないが…知的障害の孫育てる祖母、投票の「壁」に苦悩 誘導リスクある支援は「答えのない難しい問題…」 葛藤抱える家族や施設の訴え
知的障害者に投票に「壁」
衆院選の投開票日を27日に迎えた中、長野県内約170万人の有権者の中には投票の「壁」に直面している人がいる。知的障害などで自分の意思を伝えることが難しい人たちだ。県内で選挙権がある18歳以上の知的障害者は約1万7千人(今年3月末時点)で、全有権者の約1%を占める。家族や支援者は投票を諦めたり、なんとか投票機会をつくろうと模索したりと葛藤を続ける。知的障害者の保護者らでつくる団体代表は、投票を通じて政治に関わることが難しい有権者がいることを踏まえ、福祉政策の一層の充実を訴えている。 【写真】新聞紙でエコバッグを作る孫を手伝う女性。孫の投票は今回の衆院選でも諦めようと思っている
「諦めてほしくないが、厳しい」
「諦めてほしくないが、厳しい」。23日夕、北信地方の女性(76)は自宅の居間でつぶやいた。重い知的障害がある孫の男性(26)の投票を今回も見送るつもりでいる。
2人で欠かさず期日前投票に行っていたが
孫は女性の次男の子。次男は離婚し、女性が幼少期から育てている。読み書きは難しいが、短い単語で状況や気持ちを伝えることができ、女性は「意思を持っている」と言い切る。特別支援学校を卒業して選挙権を得て以降、2人で欠かさず期日前投票に行き、候補者を選んできた。
立ち合い、暗黙で尊重してもらった
孫は候補者の名前を読み書きしたり、政策を理解したりすることは難しく、代理投票の仕組みを利用してきた。公職選挙法は障害がある人の代理投票は、投票事務に就く自治体職員らが立ち会うと規定。原則、親族は立ち会いの対象外だが、女性は親交が深い職員から「暗黙で尊重してもらってきた」と明かす。
記入が難しければ白票に
女性は福祉政策の主張などを見比べて選んだ候補者を孫に伝え、孫は自分で候補者の氏名を書ければ記入して投票し、難しければ白票を投じてきたという。「この子の意思は、私の意思」。女性は自分にそう言い聞かせてきた。
「投票機会の幅広げてほしい」
2021年4月の参院県区補選から期日前投票所が変更され、以前より投票所が広くなり投票する人が増えた。代理投票で女性の立ち会いを黙認してくれた顔見知りの職員もいなくなった。孫は初対面の人や環境の変化が苦手なため、この選挙以降、女性は孫の投票を諦めている。 公選法は重度の身体障害者や要介護5の高齢者たちの郵便による在宅での不在者投票は認めているが、知的障害者は対象外だ。女性は「障害にもさまざまある。投票機会の幅を広げてほしい」と願う。「与えられた1票を投じる当たり前の経験を通じ、この子の可能性はきっと広がる」と信じるからだ。