「手は眼だ」 難病で視力失うも、創作を諦めなかった彫刻家・三輪途道
最近、粘土でつくり上げた「犬の像」は、三輪さんを長年近くで支えてきた方も「視力を失う前とほぼ変わらないクオリティになってきた」と太鼓判を押します。 「人間は学ぶんです。経験が積み重なれば、どんな技術も向上します」 そう話す三輪さんのもとを、地元・群馬大学の学生が訪ねてきました。 「目の不自由な方も一緒に楽しめる、上毛かるたをつくりたいんです!」 群馬県人の血が騒いだ三輪さんは、二つ返事でオリジナルデザインの札をつくることを快諾。地元発祥の眼鏡チェーン「JINS(ジンズ)」も協力してくれることになりました。 三輪さんはプロジェクトメンバーと話し合いを重ねながら、絵札の裏に凹凸を付けた木の札を1つ1つ、全部で44種類をデザイン。例えば、「つ」の札……「鶴舞う形の群馬県」では鶴の形。「り」の札である「理想の電化に電源群馬」では電球の形など、わかりやすさも追求しました。
「みんなとつながる上毛かるた」と銘打たれたこの“かるた”。今年(2023年)9月に中之条町で行われた芸術祭では、参加者全員がアイマスクをして、かるたの体験会も行われました。来年(2024年)には札のブラッシュアップを目指し、クラウドファンディングも予定しています。 かるたの札をデザインするなかで、三輪さんは気付いたことがあります。 「観て察すると書いて『観察』と言いますが、視覚障害者には触って察する『触察(しょくさつ)』が大事なんです。見える人も見えない人も、ガチで勝負できる“かるた”にしたいですね」 「90歳までは現役でいたい」と力強く話す三輪さん。目の不自由な方もそうでない方も「一緒の仲間」でいられる社会を胸に、きょうも「手の眼」に神経を研ぎ澄ませ、作品づくりに励みます。