「オルカン」に代表される新NISAの対外証券投資は年初来最小の買い越しに、円相場の潮目は変わるか?
■ 対外証券投資全体では過去最大の売り越し 外国債券の売り越しは10月のテーマでもあったように見える。 10月の対外証券投資全体で見ると▲6兆4987億円で、これは過去最大の売り越しとなっている。図表(2)に示すように、やはり中長期債が▲4兆4881億円と過去最大の売り越しとなったことが大きい。 ただ、8月には+7兆3370億円と過去最大の買い越しだったこととセットで評価すべきだろう。上述した「8月に買って10月に損切りした」というストーリーはやはり相応に説得力がある。 片や、対内証券投資に目をやれば、+6兆5934億円の買い越しだったので、対外・対内証券投資のネット合計では+13兆921億円(6兆4987億円+6兆5934億円)の資金流入超となる。これも過去最大である。 しかし、為替市場で実際に起きたことは150円台定着に象徴されるドル/円相場の急伸であった。対内・対外証券投資は為替ヘッジ付きフローのボリュームも相応に大きいことからネットの資本流入額と相場動向の間に安定した関係を見出すのは難しい。 特に、現状では対内証券投資の多くが株式・投資ファンド持分であるため、その部分は為替ヘッジ付きフローを前提として考えることが妥当である。
■ 「家計の円売り」は腰折れたのか? そのような中で投信の動向が注目されてきた背景には、新NISA稼働に伴う「家計の円売り」の多くには為替ヘッジ付きが付いておらず、純粋に巨大な円売り主体となっている可能性があるからだ。 実際、そのフローが2024年上半期の円安局面に寄与してきた疑いは大きい。 9月、10月と失速したとはいえ年初からの10カ月間における投信の買い越し額は+10兆1045億円に達している。残り2か月間の買い越しペースが読めないが、既に昨年実績(+4.5兆円)の倍以上の円売りが投信から出ている事実を円安相場と結びつけないわけにはいかないだろう。だからこそ「家計の円売り」がこのまま萎んでいってしまうのかは注目したい。 11月以降、金利差に応じた投機的な円売りがかさんでおり、NYダウ平均株価なども史上最高値を模索する地合いが続いていることを考えると、恐らく家計部門による外貨建て資産への投資意欲は復調に至ると筆者は考えるが、8月の経験などを脳裏に焼き付けつつ「高い内に売る」といった短期的には賢明にも見える決断が優先される可能性はある(もともと、日本の家計部門がリスク回避性向の高い投資家であることは周知の通りだ)。 そうなると、このまま投信経由の売買動向が売り越しに転じるリスクなども視野に入れる必要があるかもしれない。それ自体は、円安抑制に寄与する潮目の変化であり、日本経済全体にとっては短期的にはプラスと言えるだろう。一方で、資産運用立国という観点からは躓きと評価する向きも出てくるだろう。 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年11月14日時点の分析です 唐鎌大輔(からかま・だいすけ) みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。
唐鎌 大輔