仮設住宅前で候補者の演説を聞く住民ら＝18日午後、石川県輪島市

元日の地震に続き、9月に記録的豪雨に襲われた石川県の能登半島は、想定外の「二重被災」で復旧作業が思うように進んでいない。衆院選は後半戦に突入したが、被災地を含む石川3区の有権者からは「今は選挙どころじゃない」との悲痛な声も漏れる。 「選挙は無理にしなくてもよかった気がする」。避難生活を送っていた石川県輪島市内の仮設住宅が豪雨による川の氾濫で浸水し、今月11日から同県七尾市内の旅館で2次避難を続ける茶平政昭さん（67）は、率直な思いを打ち明ける。 元日の地震で輪島市河井町の自宅は全壊。さらに仮設住宅からも追われて旅館で先行きさえ見えない生活を送るが、復興への具体的スケジュールも示されないまま選挙戦に突入した。投票所の入場整理券も手元に届いていない。「今も多くの人が不安を抱えている。（被災地では）投票率も下がるのではないか」と茶平さんは話した。 輪島市によると、前回衆院選で20カ所だった投票所は今回18カ所に減少。隣の珠洲市では前回19カ所だった投票所は今回10カ所に減らす。また、亀裂や崩れた土砂が残る道を夜間に行き来するのは危険だとして、両市とも27日は開票時刻を繰り上げ、午後8時に開始するという。 さらに輪島市では、設置場所が確保できないといった理由で、前回衆院選時で150以上あったポスター掲示場を60カ所にまで減らさざるを得ない状況だ。それでも石川3区の候補者らは懸命に被災地を駆け回る。 「能登は忘れ去られたんじゃないか。絶対にそんなことはありません」。18日午後、ある候補者は輪島市内の仮設住宅を訪れ、住人らを前に声を張り上げた。 演説を聞いていた有権者の男性（89）は「この辺りはがれきもまだ多く残って通れない道もある。早く復興を前に進めてほしい」と切実に話す。今回の衆院選で被災者が託す「一票」への思いは確かに大きい。 ただ、多くの被災者は冷めた目で選挙戦を見つめる。30代の有権者は「能登の状況を踏まえ、なぜ今解散だったのかは分からない」と指摘。衆院選で「政治とカネ」が大きな争点となっているが、「それよりも復興支援を少しでも前に進めてほしい」と訴えた。（藤木祥平）