社長を殺しちゃった「地下アイドル」の女性3人が選んだのは“隠蔽”…現実にも起こりそうで怖い物語(レビュー)
第二十二回『このミステリーがすごい!』大賞で文庫グランプリを受賞した遠藤かたるの『推しの殺人』は、地下アイドルが主人公のノワール小説である。 大阪で活動する女性三人組アイドル、ベイビー★スターライトは危機的な状況にある。人気は伸び悩み、年長のリーダー、ルイはモチベーションを保てず、前センターのテルマは自分よりパフォーマンスが劣る現センターのイズミが気に入らない。しかも尊大な社長は飲み会にルイやテルマを同席させ、客への接待を強いてくる。 そんな折、イズミが誤って社長を殺してしまう。三人は隠蔽を決意し、社長の死体を山中に埋めようとするのだった。バラバラだった彼女らが犯罪を機に結束し、次々にやってくる困難に立ち向かっていく。全篇通してスピード感たっぷり、会話もリズムよく、次第にアイドルとしての自覚を再獲得していく姿でも読ませる。さて、彼女たちがたどり着く先は……。
ここ最近増えている印象のアイドル×ミステリー。第二十回『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉として刊行された柊悠羅『不動のセンター 元警察官・鈴代瀬凪』(宝島社文庫)もそう。人気アイドルグループのセンター、鈴代瀬凪は才色兼備で格闘技も得意。実は元警察官という異色の経歴の持ち主だ。メンバーの一人がテレビプロデューサーからもらったお香に覚醒剤が混入していると疑った彼女は、独自に調査を開始。芸能界に広がる薬物汚染の闇に迫っていく。アイドルが探偵役ときいてB級ノリかと思ったら、意外にも骨太な作りで、練られたプロットで読ませる。
真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』(講談社文庫)は第六十一回メフィスト賞受賞作。売り上げが伸び悩むアイドルグループの一人、青山柚莉愛。彼女はマネージャーからの提案により、気が進まないままに動画でドッキリ企画を配信。それが視聴者の怒りをかう。ネット炎上が広がる過程を臨場感たっぷりに描き、後半には驚きも用意されている。現実にも似たことが起こりそうで怖い! [レビュアー]瀧井朝世(ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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