ふるさと納税という「キックバック」 みんなで税をおいしく食べる仕組み
ふるさと納税は一大産業になっています。みんなが得をしているようにも思えますが、法政大学教授の土山希美枝さんは、大きなゆがみがあると言います。【聞き手・須藤孝】 【写真】返礼品としてホンダジェットを貸し切りの遊覧飛行 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇美しい物語 ――ふるさとに恩返しできるよい制度のように見えます。 土山氏 総務省のホームページには、生まれ故郷やお世話になった地域の力になれるなどと書かれています。しかし、美しい物語のなかに、いろいろなものを覆い隠しています。 ふるさとを応援したい気持ちは大事です。私も北海道の旧産炭地出身で、その気持ちを強く持っています。しかし、ふるさとでなくても応援していなくても、ふるさと納税はできます。この仕組みで確実なのは、自治体Aから自治体Bに税が任意でつけ替えられることだけです。 ◇納税先をえり好み ――税を納める先を自由に選べる制度です。 ◆納税は義務として強制されます。強制が許されているのは、自分たちの社会に必要不可欠な政策・制度を整えるためだからです。何が必要不可欠かを議会が決め、行政が行う。不満なら、主権者として住民が改めさせる。それが自治です。個人のえり好みで、そこで必要なはずの税をつけ替えるのは寄付でもありません。 ――自分の住んでいる自治体に納めたくない気持ちもあります。 ◆どうせ無駄遣いしているのだろう、という怒りもわかります。ふるさと納税でちょっとお仕置きをして、返礼品で取り返す。でも、それでは税の使い道は変わらないし、削減されるのは無駄ではない部分かもしれません。ふるさと納税によってではなく、自分の自治体に直接、文句を言わなければなりません。 ◇返礼品の開発は自治体の仕事か ――過度の返礼品では自治体のモラルも問われました。 ◆そういう制度なのですから、現場が獲得を目指すのは当然です。当初自制していた自治体も、獲得を求める声に押されて取り組み始め、ふるさと納税は大きな存在になりました。けれども、肉も海産物も名産もないところは選ばれにくいのです。 自治体が特産品を開発することは悪いことではありません。自治体が競争することも悪いわけではありません。自治体が互いの税を奪い合う制度として設計したことが罪深いのです。 外からの人気がある自治体がたくさんもらえて、人気がない自治体は資源を削られる。税のありかたとしてそれでいいのでしょうか。 ――誰も損をしていないようにみえますが、そうではありません。 ◆年に5000億円が税外に流出しています。税が必要不可欠なものならば、この5000億円はなにかで埋めなければならないはずです。5000億円がもともと余っていたというなら、その分、税を下げるべきです。 他自治体への流失が大きい、いわゆる「負け組自治体」に補塡(ほてん)するために、税を使うことを考えればいかにおかしいかがわかります。ふるさと納税で税から流れ出た分を埋め合わせるために「ふるさと納税」税を作るのでしょうか。 ◇税金のキックバック ――税金のキックバックだと指摘されています。 ◆ふるさと納税だけではありません。プレミアム商品券やGOTOキャンペーンも個人の消費を税で賄う制度です。みんなで税金をおいしく食べようという利益還元(キックバック)制度です。 しかも、投入できる額が多い人ほど得をします。住民税非課税世帯のような一番厳しい人は恩恵を受けられません。汚職や不正も起こります。 ――支持されている制度です。 ◆いろいろな人にうまみがあり、だからこそ支持される制度ですが、ゆがんでいます。税をうまく使って利益を得るのが賢いやりかたで、それができる政策や、政治家が評価されるとなれば、税の公正性は揺らいでしまいます。 税は浪費されるべきではないし、住民税をつけ替えるのもおかしいのです。地域の応援は本来の寄付ですればよいのです。ふるさと納税という欲望の結果に、向かい合うときが来ているのではないでしょうか。(政治プレミア)