音楽業界を舞台に予測不能のミステリー 真保裕一さんが自分を重ねて描いた「落ちぶれたアーティスト」の悲哀『魂の歌が聞こえるか』
【BOOK】 いろんな〝引き出し〟を持っている人だ。真保裕一さんの新刊の舞台は初めての「音楽業界」。だけどテーマはそこにとどまらない。少年法にネット社会問題などなど…。えっ? モデルはご本人だって! ◇ ――音楽業界を舞台に選んだのはなぜ 「何年か前に『音楽を文章で表現する』ことがはやったことがありました。なかなか面白い作品も多かったのですが、そのとき私は〝参戦〟せずに、少し違うアイデアを温めていた。それは、ポップ系の音楽業界の打ち明け話とともに、成功譚とちょっと落ちぶれたアーティストの話をからめること。そうすると物語に『奥行き』が出るように思ったのです」 ――〝ちょっと落ちぶれたアーティスト(物語の御堂タツミ)〟が切ない 「これは、自分がモデルです。(物語の御堂のキャリアは)15年になるかならないか、ですが、私はもう(作家として)30年もやってきた。後は落ちていくだけでしょう。だからそこはもう、思い入れたっぷりに書かせていただきました」 ――もう一方の主人公として素性を明かさない〝覆面バンド〟が 「今はたくさんいますよね。こっちのモデルはいませんねぇ。書きたい物語は決まっていたので、それに即した『人物』を登場させました」 一番の心配は“昭和クセぇ”って思われないか、ってことかな(笑) ――自身ではどんな音楽が好きですか 「R&Bが多いですね。というのもアニメの仕事をやっていたとき〝ながら作業〟で日本語の音楽を聴くと、気になって作業が滞ってしまう。だから『英語』がいいんですよ。もちろん、中学生のころにはフォークソングも聴いたし、自分たちでバンドを組んで作詞作曲をしたり…。音楽というのは『世代』が出るでしょう。(今回の作品で)一番、心配なのは〝昭和クセぇ〟って思われないか、ってことかな(爆笑)」 ――その心配はありませんよ。日進月歩の最新の業界が描かれている 「変化が激しいですよね。ストリーミングが主流となってCDが売れなくなったり、社内ディレクターを『A&R』と呼ぶようになったり。知識だけはあったので、詳しい中身は業界の方に取材したりしたのですが、大事な(秘密の)話は教えてくれない」