ほのぼのエピソードだけじゃない! 高齢&過疎化が進む地域医療の実情に迫る『離島で研修医やってきました。 お医者さん修行中コミックエッセイ』【書評】
普通の医療現場では“ありえない”シーンも、人手の足りない医療現場では日常茶飯事である。重ねて、そんな他人との密度の濃い交流や近しい距離感を、温かなぬくもりのある関係性と取るか。あるいはうっとうしい過干渉と感じてしまうか。島で暮らす人の大半は同じ島民や近所の人々との繋がりを心地良く感じている。しかし一方でそんな他人との関係性を煩わしく思う人も、当然世間にはいることだろう。 学んだ理論や理屈、理想、医学知識としての正解はある。しかし目の前の患者や人物にとって、その正解が必ずしも最適解ではない。身をもって学べる貴重な機会のひとつが、本書の舞台でもある離島ほか地域医療の現場だ。重ねてそれは、本エッセイが読者に提示してくれる貴重な価値観のひとつでもある。
決められた絶対解はない。ひいてはそれが医療の難しさであり、人の生き方の難しさであり、一方で面白さでもある。離島での地域医療を題材とする本書を通して、そういったことを学び、思考を得る人もきっと多いに違いない。 自分がもし研修医なら、医者なら、こんな離島の地域医療に挑戦してみたいだろうか。あるいは自分が歳を取った将来、こんな形の地域医療の環境下で暮らしたいだろうか。様々な角度から医療現場を考えると同時に、きっと本著を読んで地域医療へ抱く感想もまた、人それぞれであるはずだ。ぜひ機会があれば今作を通して、誰かと感想や意見を交わし合っても面白いかもしれない。それだけで、様々な人が多様な考え方を持っていると気づけるだろう。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ