廃線となった鉄道で新駅が開業 ── そのワケは? 鉄道ライター・伊原薫
いま、日本のローカル線は大変厳しい状態が続いています。今年5月にはJR北海道の江差線で一部区間が廃線となったほか、2010年7月の土砂災害により運休となっていたJR岩泉線は復旧されることなく2014年4月に廃止されました。2012年4月に十和田観光電鉄や長野電鉄屋代線が廃線となったのも、鉄道ファンにとっては記憶に新しいところでしょう。
廃線となった鉄道のその後は様々です。2008年に廃線となった兵庫県の三木鉄道では、三木駅跡に当時の駅舎を模した「三木鉄道記念公園」が建設され、また廃線跡は一部が遊歩道として整備されています。3両の車両はそれぞれ樽見鉄道・北条鉄道・ひたちなか海浜鉄道へ移籍し、いずれも元気に活躍中です。茨城県の鹿島鉄道や日立電鉄の廃線跡は、一部がバス専用道として整備され、鉄道代行バスが走っています。 一方、廃線跡の敷地や車両を観光に利用するところもあります。岐阜県の神岡鉄道では、線路の上を走行できる「レールマウンテンバイク」が運営されていて、観光客に人気を呼んでいます。他にも廃線跡を遊歩道やサイクリングロードとして整備したり、駅舎や当時の車両を保存する例は多くあり、その地に鉄道があったという歴史を伝えています。 そんな中、20年以上前に廃線となりながら今も月1回列車が走り、しかも今秋には線路が伸びて新駅が開業する「鉄道」があると聞きました。廃線になっているのに新駅開業とは正に前代未聞、これは一体?
廃線になった鉄道が月1回「復活」
その「鉄道」とは、岡山県にある旧・同和鉱業 片上鉄道線。かつて日本最大の硫化鉄鉱山であった柵原鉱山から、産出した鉱石を片上港まで輸送していましたが、柵原鉱山の閉山と共に1991年7月に廃線となりました。廃線後は大部分の線路跡がサイクリングロード「片鉄ロマン街道」として活用され、国内だけでなく台湾などからも訪れる人がいるとのこと。そしてもう一つ、旧吉ヶ原駅跡に「柵原ふれあい鉱山公園」が整備され、柵原鉱山の歴史資料の展示と共に、旧・片上鉄道線の車両たちが保存されています。そして、この車両たちは今でも月1回、実際に線路の上を走るのです。 保存を担当しているのは「片上鉄道保存会」の皆さん。地元の方をはじめ、岡山や大阪・広島などから約30名が集まり、車両の運転や整備、そして線路の保守など列車を走らせる全ての作業をボランティアで引き受けています。毎月第1日曜日に行われる「展示運転」では、旧吉ヶ原駅を起点に片道約300mの距離を走行。かつての本線を、当時と同じようにエンジン音を響かせて列車が走ります。列車の運転だけでなく、駅員や踏切の係員も全て会員が行っており、旧・片上鉄道線時代の制服・制帽を着用するなど、当時の雰囲気をそのまま伝えています。 「単に車両を保存するだけでなく、運転の仕方や駅の雰囲気など、旧・片上鉄道線そのものを保存し、来園者に味わってもらえるよう努めています」と、保存会広報担当の斉藤さん。その言葉通り、かつて日本全国で見られたようなローカル線の風景がそこにはありました。木造駅舎の窓口で保存会の会員となり(現在は保存会の「一日会員証」を発行していて、一日会員となることで保存活動の一環として乗車体験ができます)、改札口をくぐって戦前生まれのディーゼルカーに乗り込みます。ジリリリリ・・・という発車ベルが鳴り、重そうなエンジン音とともに動き出した列車は、田園風景の中へ。わずか300メートルのプチ旅行ですが、鉄道ファンでなくとも実に楽しい、そして懐かしい体験ができるのです。