借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
<ドイツ軍艦の台湾海峡通過は中国政府を激怒させた。中国との経済関係を何より重視してきたドイツの「転向」は、何を意味するのか>
去る9月13日、ドイツの軍艦2隻が22年ぶりに台湾海峡を通過した。経済面ではひたすら中国との協調を演出してきたドイツが、政治面では強硬姿勢に転じた証しと言えばいいか。当然、中国政府は厳しい言葉で抗議と警告を発した。 【動画】出産生中継までする中国のインフルエンサー その直前には中国経済の現況に関する月例報告で、またもや惨憺たる状況が示された。相変わらず物価は下がり続けており、設備投資などの企業活動も鈍い。それは中国経済が病んでいて、借金(債務)と人口(少子高齢化)とリスク回避(買い控え)の三重苦によるデフレから脱却できない現実を指し示している。 まさに内憂外患。習近平(シー・チンピン)国家主席の率いる政府はパニック状態で、ついに昔ながらの「砸鍋売鉄(ザークオマイティエ、鍋をつぶして鉄を売れ)」ということわざまで持ち出した。要は、どんな犠牲もいとわず(借金返済に必要な)原資を調達しろということ。それほどまでに事態は深刻なのだ。 公式発表でも、国全体の公的債務残高は2023年に前年比で45%も増えた。今年上半期には31ある省レベルの地方政府のうち、上海を除く全てが赤字だった。 税収不足に加え、公有地の売却で稼げなくなった地方政府は何としても債務弁済費用を調達しようと躍起になっている。民間人にも外国企業にも、軽微な法律違反に対して異様に重い罰金を科している。30年前にさかのぼって延滞税の支払いを強要してもいる。こんなことが「砸鍋売鉄」の現実だとすれば、それで得られるものは何もなく、ただ政府の危機管理能力への信頼が失われるだけだろう。 中央政府の対応も、地方政府に負けず劣らず巧妙かつ愚かしい。いい例が、皮肉を込めて「白酒化債(マオタイ酒で債務を溶かす)」と呼ばれた一件だ。100%国有の酒造会社「貴州茅台酒」の株式の10%を手放し、それを貴州省の地方政府に譲った。 本来なら中央政府に入るはずの利益の一部を、借金漬けの地方政府の救済に回した格好だが、何の解決にもならない。腐敗した地方官僚が喜ぶだけで、構造的な債務危機の解決にはつながるまい。 生産性の高い民間企業に売却すれば利益を出せるはずの国有資産を、習は手放そうとしない。少子高齢化と買い控えに起因するデフレ圧力の解消に役立つと期待される、一般家庭への消費奨励金支給にも反対している。どうやらこのサディスティックな支配者は、コロナ禍の終盤に厳しいロックダウン(都市封鎖)を継続して悲惨な結果を招いた教訓に学ばず、同じ過ちを繰り返そうとしているようだ。 国外の投資家もこの状況を理解している。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンは、稼働率が50%台まで落ちたことを理由に2つ目の工場の閉鎖を計画している。メルセデス・ベンツは中国市場での業績低迷を理由に収益見通しを引き下げた(おかげで株価が急落した)。その他の外資系企業も同様に苦戦を強いられており、それら企業の本国政府は中国政府と中国市場に対する距離感の見直しを迫られている。 つい先日まで、これら諸国は中国が「おいしい市場」だと信じ、政府の機嫌を損じないように努めてきた。しかし今の中国市場は悲惨で、それを政府が改善できる見込みもない。そうであれば、もう中国にこびる必要はない。中国製品には高率関税を課せばいい。台湾問題でも、ドイツを含むOECD(経済協力開発機構)の主要加盟国が台湾支持に転じつつある。 こうした変化はまだ始まったばかりだが、数年後にはどうなっていることか。経済の活力を失った中国で、政治的な拡張主義の野望も縮んでいけばいいのだが。
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)