米国で「RD」の利用が急増中!? 電気でも水素でもないトラック脱炭素の第3の選択肢とは?
RDには「世代」がある?
RDは一般に、その原材料により第1世代から第4世代に分類される。この分類は研究者等によって若干の差異が認められるものの、おおむね次のようなガイドラインに従っている。 第1世代 : 食用作物を原料とするRD。原料には大豆油やDCO(トウモロコシからアルコールを醸造する際に副産物として製造される食用油)などがある。こうした原料は「食用バイオマス」とも呼ばれ、食品の供給と直接的に競合するため、第1世代RDの需要が増えると食料品の価格高騰を招く可能性がある。 第2世代 : 食用作物をそのまま原料にするのではなく、その廃棄物を原料とするもの。廃棄される食品(生ゴミ)のほか、農林業の余剰生産分なども含まれる。代表的な原料はUCO(使用済み食用油)など。「非食用バイオマス」とも呼ばれる。 第3世代 : 藻類やシアノバクテリア(ラン藻類)から取り出すバイオマスで、これらの生物の中にはアルコールや油脂を生産する種があることが知られている。現在は大規模な実用化に向けた研究開発段階にある。「藻類バイオマス」とも呼ばれる。 第4世代 : 研究段階のRDで、遺伝子編集技術により藻類等の燃料生産性を飛躍的に高めたり、望ましい性状の油脂を生産するもの。 今日、大量生産され一般的に入手可能なRDはほぼ第1・第2世代燃料に限られている。CARBはカリフォルニア州で消費されたRDを原材料までトレースしており、28%がUCO、25%が牛脂、21%がDCO、18%が大豆油となっているそうだ。 米国でのRD消費量の急増により国際貿易にも変化が生じている。農業大国とされる米国だが、米国農務省(USDA)が2024年6月に公開したレポートによると、今や油脂類の輸入額が輸出額を大幅に上回り、たとえば大豆の場合、2023年に純輸入国に転じた。
RD急増の背景にある環境規制
地球温暖化を食い止めるという大義のもと、CO2の排出量を削減するための環境規制が世界中で進められているが、中でも米国カリフォルニア州は全米に先駆けて先進的な取り組みをすることで有名だ。 現在、大型車の「脱炭素」で主流となっている電動化では、TTWが重視される。局所的な大気汚染の削減には重要な指標だが、より長期的・全球規模での温暖化対策としてはWTWでの排出削減が重視される。こうした観点から同州はRDを積極的に支持しているのだ。 カリフォルニア州は「ACT規制」及び「ACF規制」によりゼロ・エミッション車(ZEV)の受け入れを強制的に市場に求めており、用途にもよるが2036年までに州内の中大型トラックは全てZEVとする必要がある。また、先述の通りRDの市場価格を抑える施策が導入されているため、利用が急速に広がっている。 なお、同じく積極的な環境規制を行なっている欧州連合(EU)はRDの利用拡大を含めて加盟国に柔軟なアプローチを認めている。RD以外に非バイオ系の再生可能燃料(RFNBO=合成燃料とグリーン水素)も重視され、逆に食用バイオマスの燃料転換(第1世代RD)は認めない立場のようだ。 いっぽう、我が国にとってもRDはエネルギーの海外依存を減らし、中小企業が多い運送業界の脱炭素を進める上で重要になるだろう。藻類やシアノバクテリアの活用など先進的な取り組みが進められているが、政策的な方向性が乏しい。また、RDとバイオディーゼル、バイオ燃料の定義もあいまいである。 補助金や税控除など政策の影響を受けやすいのはRDのリスクでもある。実際にUSDAも「(カリフォルニア州の)政策やインセンティブが無ければ、RDの消費拡大も起きなかった」としており、RDの製造・消費が減少に転じるシナリオは考えにくいとしても、その伸び率は全米や州レベルの政策に強く依存している。 食料品との競合のほか、RDは「持続可能な航空燃料(SAF)」とも競合する可能性がある。RDとSAFは原材料がほとんど同じで、自動車以上に電動化が難しい航空機のためにSAFの製造が優先されれば、RDの供給は減るだろう。 RDに限らず、バイオ燃料は脱炭素に不可欠となるため、特定の業界(だけ)のための政策は、全体としてのCO2削減量を押し下げる可能性があり、避けるべきだ。 国内でもRDを活用した実証運行などは何度も行なわれているが、米国のような大規模商用化には至っていない。とはいえ大型車の脱炭素においてコスト効率を考慮すれば今度RDの利用が拡大していくのは間違いなく、トラック事業関係者はバイオ燃料の動向にも注視する必要がありそうだ。