米国で「RD」の利用が急増中!? 電気でも水素でもないトラック脱炭素の第3の選択肢とは?
「軽油」だけではないディーゼル車の燃料
今日、大型トラックのほとんどはディーゼルエンジンを搭載している。ICEであるディーゼルエンジンの燃料(ディーゼル燃料)には、専ら「軽油」が使われている。これは米国に限ったことではなく、世界で共通だ。 軽油は原油を精製することで得られる化石燃料で、炭化水素に富みエネルギー密度が高い反面、燃焼により多くのCO2を大気中に放出する。化石燃料の燃焼によるCO2の増加は、地球の気温を上昇させる効果(温室効果)があるため、化石燃料への依存を減らす取り組みが進められていることは周知のとおりだろう。 いっぽう、ディーゼルエンジンで燃焼可能なのは軽油だけではなく、食用油などを軽油に近い性状に加工し、非石油系のディーゼル燃料とすることも可能だ。中でも、生物資源(バイオマス)に起源をもつ燃料を「バイオ燃料」と総称する。 また、大気中から回収したCO2を原料に合成した燃料は「eフューエル」または「合成燃料」と呼び、これも再生可能とみなされる。ただし燃料における「再生可能」の定義は国や地域によって異なる。 (なお米国において「ディーゼル燃料」の要件定義は複数あり、引火点や粘度などの試験に適合した「ASTM D975」や、含有する硫黄の濃度による「ULSD」、カリフォルニア州大気資源局(CARB)の「CARBディーゼル」などがある) ディーゼルエンジンで燃焼するバイオ燃料には2種類がある。すなわち「バイオディーゼル」と「再生可能ディーゼル(RD)」だ。これらの燃料を軽油と混ぜたり、軽油の代わりに単独で用いたりする。 バイオ燃料は燃焼すればCO2を排出するが、そのCO2は植物等が大気中から取り込んだものであるため、製造工程を含めると全体の炭素収支がプラスマイナス・ゼロとなる。「カーボンニュートラル」とみなされる仕組みは、バイオ燃料もeフューエルも同じだ。
2種類のバイオ燃料
2種類のバイオ燃料のうち、「バイオディーゼル」は脂肪酸メチルエステル(FAME)を含む燃料のことだ。 FAMEはディーゼルエンジンで燃焼できるが、化学的な性状は石油から作る軽油とは異なっており、一般的に軽油に混合して用いる。たとえば「B5」バイオディーゼルは、軽油に対してバイオディーゼルを5%含む燃料で、「B20」なら同6~20%含む燃料となる(米国での定義)。 バイオディーゼルは植物油や動物性の脂肪を加工して製造するが、最終的な処理を経ても酸素を含むためエネルギー密度が低く、エンジン部品に対する腐食性がある。また燃焼時のNOx排出量が軽油より増える可能性も指摘されている。 FAMEの比率が高いほどエンジンへの負の影響が大きく、エンジン側の改修が必要となる。このため従来のトラックでそのまま使えるわけではないのだが、最近、ボルボなど一部のメーカーは100%バイオディーゼルの「B100」燃料への対応を発表している。 いっぽう、「再生可能ディーゼル」ことRDは化学的な性状を軽油と同等にしたバイオ燃料のことだ。このためRDは任意の比率で軽油に混ぜることができ、また100%バイオ燃料としても用いることができる。 RDは従来型のトラックにそのまま給油できる「ドロップイン燃料」である。 RDの製造方法は複数あり、代表的な方法は水素化処理だ。廃棄物やバイオマスから製造した油脂に高温で水素を反応させ、高圧をかけて水と酸素を除去する方法で、RDとして商品化するにはさらに追加の処理が必要になる。 特にドロップインという特性は運送会社にとってメリットが大きく、車両やインフラにあまりコストを掛けられない中小企業であっても、従来の仕事を続けながら脱炭素の取組を進めることができる。 2023年、米国の輸送セクターの軽油消費量は464億ガロン(2100億リットル)だった(RDやバイオディーゼルも含む)。このうち77.8%(1634億リットル)がトラックによる消費だそうだ。そして、米国内で325万台が走っている長距離輸送用の大型トラクタが1273億リットルを消費している。 ディーゼル燃料に混合するバイオディーゼルは、トラック業界で広く使われてきた。しかし、近年はRDの使用量が急増しており、2022年にバイオディーゼルを抜いた。併せて米国内での製造量も急速に増えている(従来は欧州などからの輸入が多かった)。 米国の2023年のRD消費量は28億ガロン(106億リットル)となった。これは前年比で66.9%、2018年比で500%の急増で、米国のトラック業界でRDのブームが起きていると言えるだろう。 CARBの報告(2022年)によるとRDの約7割がカリフォルニア州で販売され、州の低炭素燃料助成金の対象となった。世界のRD消費は2023年に36.9億ガロンと推定され、実に77%が米国内で消費されている計算となる。