スクリーンの32校を背に宣誓「再び希望見いだした」 交流試合開幕戦の両主将
10日開幕した2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、毎日新聞社、朝日新聞社後援)。新型コロナウイルスの感染防止のため、開会式は開幕試合の2校のみが参加し、バックスクリーンの大型ビジョンに各校ナインの集合写真が映し出される前例のない形で行われた。選手宣誓でも開幕試合の2校の主将が言葉をつなぎ、全国の高校球児の思いを力強く語った。 【開幕ゲームに登場した大分商と花咲徳栄】 ◇大けが、九州豪雨…仲間と乗り越え 大分商・川瀬主将 「限られたチームしか甲子園に立てず、全国の球児が悔しい思いをしている。だから絶対に手を抜けない」。大分商の川瀬堅斗主将(3年)は、この舞台に立つ重責を感じていた。 今春、23年ぶりの切符を手にしたセンバツが中止になった。「甲子園に行けずに高校生活が終わるのか」。どん底に突き落とされた。それでも主将として「1%でも可能性を信じろ」と部員を鼓舞し、率先して練習に打ち込んだ。交流試合開催の吉報が届いた時の喜びはひとしおだった。 兄はプロ野球・ソフトバンクの川瀬晃選手。自身も最速148キロの速球を誇る本格派右腕でプロのスカウトも注目する。 エリート街道を突き進んだと思われがちだが、中学3年の10月、車にはねられて頭を骨折。一時は生死をさまよった。1カ月半の入院を強いられ、後遺症の不安を抱えながら、高校入学後は夢の甲子園を目指した。リハビリの成果があり、1年の秋からエースとしてチームをけん引する。 選手宣誓は前半を担当し、基本的な内容は自分で考えた。新型コロナウイルスに加えて、地元大分県などが7月の九州豪雨に見舞われたこともあり、宣誓の言葉に盛り込んだという。さらに「夢の舞台甲子園を目指し仲間とともに励まし合いながら心技体を鍛えてきました」と全国の高校球児の思いを代弁。交流試合の開催で「再び希望を見いだし諦めずにここまで来ることができました」と大きな感謝を示し、ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って一緒に宣誓の練習をした花咲徳栄(埼玉)の井上朋也主将(3年)に言葉を引き継いだ。 この日の試合は接戦の末に1-3で敗れたが、自身は夢舞台で完投でき、打者としても2安打を放った。試合後、「甲子園は最高の舞台。チームのみんなとここで試合ができ、本当にうれしかった」と充実感をにじませた。【辻本知大、園部仁史】 ◇被災地に明日への勇気と活力届ける 花咲徳栄・井上主将 2019年秋まで高校通算47本塁打のスラッガーは、主将として3度目の甲子園の土を踏んだ。花咲徳栄(埼玉)の井上朋也主将(3年)の甲子園デビューは前回大会覇者として乗り込んだ18年夏。1回戦で終盤に逆転の適時打を放って注目を集めた。「趣味は素振り」と、寮の自室ではいつもバットを手にする。19年12月に主将を任され、「口で言うだけではなく、行動で示す」と強打が自慢のチームを引っ張ってきた。 チームはセンバツ出場を決め、順調に成長を続けていたが、新型コロナウイルスの影響でセンバツも夏の選手権大会も中止に。「俺たちついてない世代だな」。同級生たちと笑って話し、割り切った。 しっかりとプロを見据える。臨時休校による活動自粛期間中は、全国制覇した17年夏の4番打者で、2年先輩の野村佑希選手(北海道日本ハム)にも相談。木製バットを使った打撃練習に挑戦した。筋力トレーニングも毎日続け、パワーにも磨きをかけた。「自分と向き合う貴重な時間になった」と振り返る。 選手宣誓では、大分商の川瀬堅斗主将(3年)の宣誓に続けて「一人一人の努力が皆を救い、地域を救い、新しい日本を創ります」と力強く主張。「(九州の豪雨災害で)被災された方々をはじめ多くの皆様に明日への勇気と活力を与えられるよう」と述べ、最後は川瀬主将と声をそろえて「最後まで戦い抜くことをここに誓います」と宣誓した。 3度目の甲子園は、一回に3点を先取して以降得点できず、自身も無安打と持ち味を発揮できなかったが、選手宣誓の大役を堂々と務めた。「(選手宣誓が)決まった時は緊張したが当日は落ち着いていた。高校球児の代表で感謝の気持ちを表せた」と締めくくった。【成澤隼人、荻野公一】