上野動物園のジャイアントパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」のフォトグッズ。24年3月に販売を終了しているが、フォトブックの売り上げの一部はジャイアントパンダ保護サポート基金に寄付された（写真＝鈴木 愛子）

　TOPPANが提供する「MINTSUKU（みんつく）」は、スポーツ選手や俳優などの著名人の写真をファンが自ら選んでオリジナルのフォトグッズを制作できる「推し活」関連サービスだ。ユーザーはみんつくのサイトやアプリ経由で、フォトブック、カレンダー、ポストカードといったオリジナルの「推し」グッズを制作できる。 【関連画像】2.5次元舞台を軸にミュージカル・声優・映画など多岐にわたり活躍する俳優・赤澤遼太郎さんのフォトグッズ。27歳記念公演グッズは24年4月に販売終了している（写真＝鈴木 愛子） 　フォトブックはソフトカバー版A4サイズ（40ページ）、A5サイズ（36ページ）、ハードカバー版A4サイズ（16ページ）の3種類から選択可能。カレンダーはB6サイズ、ポストカードは5枚セットで、制作した推しグッズは購入後、約3～4週間で手元に届く仕組みだ。 　みんつくの正式リリースは2022年。WEB版とアプリ版を合わせて現在会員数は約2万人、協業するコンテンツホルダーは約30以上に上っている。いずれも公式に許諾を得た写真のため、安心・安全に「推し活」できることが大きな特徴。コアユーザーは40～60代の女性という。これまでにプロバスケットボールチームやプロアイスホッケーチーム、俳優、動物園など多様なコンテンツホルダーと協業してサービスを提供してきた。

　「最大の特徴は、我々が正式にコンテンツホルダーから許諾を取った写真のみを閲覧・選択できるため、ユーザーは公式のお墨付きのある写真として安心してグッズを制作することができるという点にあります。コンテンツホルダー様にとっては在庫リスクを抱えることなくグッズの販売が可能になり、双方にとって大きなメリットを感じていただけるような仕組みを整えました」（TOPPANフロンティア事業開発センターの小熊理恵氏） 　グッズ販売はコンテンツホルダーにとって大きな収益が見込める重要なビジネスだが、在庫リスクが常につきまとう。だが、みんつくを利用すれば初期費用や月額費用といったリスクを負うことなく、これまで取り上げてこなかった内容の写真でもグッズ販売に挑戦することができる。 　1コンテンツあたりの写真点数に特に制限は設けられていない。最もページ数が多く、点数が必要となるフォトブックに合わせて50枚以上の写真登録を推奨しているが、みんつく側では1000枚の登録でも問題はない。販売点数が読めないようなチャレンジングな内容でも、幅広いラインアップを用意して試せる利点がある。実売に対してはロイヤルティーが発生するため、最小限のリスクで利益を得られる。 ●岐路に立つ印刷業界から生まれた新規ビジネス 　TOPPANは長年にわたって出版社というコンテンツホルダーを相手に印刷関連技術を提供してきた。「いかに早く安く高品質かつ大量に生産するか」を主軸に置いたビジネスを展開してきたが、それだけでは時代のニーズに応えることは難しくなってきた。消費者のニーズの多様化が加速度的に進んでいるためだ。 　オンデマンド、パーソナライズが一般的なサービスとして世の中に定着してきた中で発達したのが、デジタルプリントサービスだ。これまでは印刷の型、「刷版」をつくってハンコのように大量に印刷していく手法が一般的だったが、多品種小ロットのオーダーが増えてきたことでデータをそのままプリントするデジタルプリントサービスが主流となった。 　このデジタルプリントサービスを事業化すべく、若手を中心とした企画会議でさまざまなアイデアが出され、その中の一つとして20年に産声を上げたのがみんつくの原型となるサービスだ。 　当時、TOPPAN社内では他社との協業によってスポーツ業界にコネクションができたタイミングだったが、世は新型コロナウイルス禍の真っただ中。スポーツ観戦や各種イベントは軒並み中止となり、開催される場合でも観客動員が大きく制限されていた時期だった。 　会場に足を運べない観客のために何かできることはないか。この発想から生まれたのがみんつくの始まりである。観客なしで開催された大会の会場で写真を撮影し、公式の許諾付きで販売を始めた。フィギュアスケートから始まり、その後に開催されたアイスショーでも採用が決定。汎用性を高めて仕組みを整え、22年に正式リリースに踏みきった。 ●ライツコントロールが可能で初期投資・在庫リスクがない 　これまでいわゆる同人誌で制作していたようなファンブックを、デザインソフトなどの特殊なツールや知識を使わず誰でも制作できるようにパッケージ化した、というのが概略としては近い。コンテンツを選択してグッズをつくるというサービス自体は既に世の中には無数に存在しており、TOPPANはむしろ後発組と言える。 　決定的に他のサービスと異なるのは、「公式のお墨付きがある」という点。肖像権などが絡む写真の使用に敏感なファンも、安心して写真を使える点が大きな特徴だ。 　その意味でも、みんつくは「推し活」の行動原理を重視していると言える。TOPPANでは、「推し活」を「自分の好きなもの、応援したいものを他の人に広めること、推薦すること」と定義している。第三者に「推し」を推薦するという行為は通常、ユーチューブの切り抜き動画に代表されるように、元の公式コンテンツのファーストデータがあり、そのデータを短く切り取ったり、要点をまとめたり、オリジナルのコメントや解釈を付与したりすることでオリジナルデータとは異なる価値をつけて再配布することが多い。 　「より見やすく整理する」「参入障壁を下げる」というのが広義の二次創作だとすれば、ファンの拡大やコミュニティー形成に大きく貢献する一方で、公式サイドには収益が還元されない側面がある。 　また、公式の許諾を得ずに行われるこうした行動は、コンテンツホルダーが意図せぬ方向に内容が広まる危険性をはらみ、海賊版の問題、思わぬ炎上が発生する危険性もある。ライツコントロールの観点からも課題は多い。コンテンツホルダーにとっては、ファンが個々に楽しんで拡散していく分にはありがたい一方、「どうぞ、好きに拡散してください」とは言いづらい現実がある。 　その点、みんつくは公式に許諾を得られたコンテンツだけを取り扱い、かつ販売収益から30％程度のロイヤルティーもコンテンツホルダーに還元される。「推す側」「推される側」双方にとってメリットの大きい事業と言える。