房総野生探訪記。(2/3)
快晴の秋晴れといった天気ではあったが、10月にしては少し汗ばむほどの気温だった。この日、私は2度目の訪問となった。実は前回9月に訪れたとき、早朝から半日ほど君津の山々に仕掛けた罠を小林さんと見回ったのだが残念ながら獲物の姿を見ることはできず、再訪を約束し東京へと戻ったのだった。 東大卒の若者が選んだ猟師という生き方
お互いのタイミングがなかなか合わず、前回から三週間が経とうとしていた頃だった。前日の撮影が長引いてしまい体調も万全ではなかったが、朝の9時半ごろに鳴った携帯で目が覚めた。「狸と猪が獲れているのですが如何しますか?」待ちに待った捕獲報告のLINEが届いた。 すぐさま、本人へと連絡をすると、捕獲場所は館山のほうなので止め刺し(放血)を終えた状態でよければ君津の古民家で落ち合いましょうとのこと。仕留める瞬間を撮りおさめたいという欲求と、このタイミングを逃すと次はいつになるのかわからないという不安との間で葛藤したが、迷いを断ち切りカーシェアを房総半島へと走らせた。
前回同様にアクアラインを通り東京湾を渡る。都心を背に、前方には青々とした山が見えてきた。東京から1時間ほどで景色が様変わりする感覚に心が躍る。気負うことなく旅をするこの距離感は少しクセになりそうだ。古民家に到着したのはお昼を過ぎた頃で、小林さんは獲れたばかりの猪をシャワーで洗っているところだった。「15キロぐらいですね。今年生まれたての、うり模様が消えたぐらいの猪です」
暑さで肉が痛みやすいらしく、すぐに解体が始まった。先っぽに返しがついたガットナイフを使いながら、腹へ切れ目を入れていく。ほんの数時間まで生きていた猪の内臓を取り出しながら、部位の説明をしてくれる。 「これが胆嚢です。鹿にはないんですよ。若いけどレバーはそんな綺麗じゃないですね」ジャッジャッジャッと胸骨を切る音がリズミカルに鳴る。解体作業を眺めていると、不思議といつからか美味しそうな肉として見ている自分に気がつく。「冬のいい個体だったら脂がのっているんですけど、脂があるのはバラの部分だけですね」小林さんは僅かな脂でも取りこぼさないように丁寧に皮を剥いでいく。1時間ほどで猪は獣から鮮やかな赤みと薄い脂を纏った肉の塊へと変わった。