アングル:米財務長官指名のベッセント氏、注目すべき5つのチャート
[25日 ロイター] - トランプ次期米大統領は22日、自身の経済政策の指揮を執る財務長官に著名投資家のスコット・ベッセント氏を指名すると発表した。金融市場はこの人事が目先の経済成長を押し上げると同時に、インフレを再燃させると予想している。 次期財務長官が注目すべき5つのチャートを以下に挙げた。 <膨らむ米政府債務> 米政府は既に35兆ドルを超える債務を抱え、このうち28兆ドルは米国債の形で世界の債券市場に流通している。 トランプ政権1期目に債務総額は7兆8000億ドル超増加し、米国債発行残高は7兆2000億ドル増加。バイデン政権下では債務総額がさらに8兆2000億ドル、米国債発行残高は7兆ドル近く増加した。 議会予算局(CBO)の基本予測によると、トランプ氏の2期目が終了する直前の2028年末までに債務総額は約42兆ドル、米国債発行残高は35兆ドルに膨らむ見通しだ。この予測はトランプ氏が目指す追加減税や関税を考慮に入れていない。 米国債市場は世界で最も安全な資産プールとされるが、それでも連邦債務の急拡大にますます敏感になり、投資家がいつまで有利な金利で米債務に資金を提供する用意があるか懸念が浮上している。 <成長を上回るペースで拡大する財政赤字> トランプ氏が掲げる減税が税収減少につながる可能性が高いことを踏まえると、ベッセント氏は減税による景気刺激効果で財政赤字の拡大を上回るペースの経済成長が実現することを期待せざるを得ないだろう。 ベッセント氏は財政赤字を国内総生産(GDP)比3%に削減したいと述べている。24年度(23年10月─24年9月)の財政赤字は実質GDP比7.8%だった。オバマ政権時代の15年以来、3%以下になったことはない。 トランプ政権1期目は17年度に3.4%だったのに対し、新型コロナ対策で赤字が膨らんだ20年度は15.2%まで上昇した。 CBOは来年に6.1%、トランプ氏の2期目終了直前に5.6%となった後、30年以降は再び上昇すると予測している。 <国債利払い費> 連邦債務の返済コストは、債務拡大に加え米連邦準備理事会(FRB)が実施してきた利上げも重なり、24年度に初めて1兆ドルを超えた。同年度の支出項目で国債利払い費を上回ったのは公的年金「ソーシャルセキュリティー」のみだった。 FRBが利下げを開始したにもかかわらず、米国債利回りはトランプ氏の政策を見込んで過去2カ月間で大きく上昇し、それに伴い政府の借り入れコストも上昇が続いている。 最近の新発米国債入札は今のところ好調だが、市場規模の急拡大が続けば、今後も順調に推移するかは不透明だ。 <ドル高> ドルは9月下旬以降、主要貿易相手国の通貨バスケットに対し7%超上昇し、約2年ぶりの高値水準にある。 ドル高は輸入品の価格を下げるため、トランプ氏の経済政策による物価押し上げを幾分和らげる見込みだ。だが、ドル高は輸出の逆風になるため、トランプ氏が目指す関税を導入しても貿易赤字を縮小する取り組みは複雑になるだろう。 <厄介なFRB> ベッセント氏はFRBと政権の中心的な橋渡し役にもなる。パウエルFRB議長は現財務長官のイエレン氏とも、その前任のムニューシン氏ともほぼ毎週のように会っていた。ベッセント氏はFRBの政策、特に金利について意見を述べる機会を多数得るだろう。 トランプ氏はパウエル氏をFRB議長に指名したものの、議長が前任のイエレン氏の下で開始された利上げ路線を継続したため不満を募らせた。 トランプ氏は今回、FRBが利下げを進める中で就任する。ただ、利下げの程度は当局者らが2カ月前に想定したほどではなく、トランプ氏が望むほどにもならない可能性がある。インフレ率の低下が再び失速しつつあり、雇用市場が依然としてかなり健全なためだ。 パウエル議長の任期は26年5月までで、歴史を踏まえれば、ベッセント氏は後任についてトランプ氏に助言する上で影響力を持つ人物となる可能性がある。ベッセント氏は今年、パウエル氏の権限を弱めるため後任をできるだけ早く指名する、いわゆる「影の議長」指名を提案したが、その後この案を撤回した。