世界の若手デザイナー頂上決戦を現地リポート 「イエール賞」最終選考者に日本人も
今年のファッション部門の審査員長は、「クレージュ(COURREGES)」アーティスティック・ディレクターのニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が務めた。同フェスティバルの特徴は、その年に務める審査員長の美学や服作りへのアプローチが選考基準に表れること。コンセプチュアルなクリエイションが評価されることもあれば、コマーシャルに強いリアルな提案がグランプリを受賞することもある。その傾向を考慮したうえで、受賞者を予想するのが同フェスティバル参加者の楽しみの一つとなっている。
グランプリは“錯覚”の妙
また同フェスティバルでは、ファイナリストのコレクション制作を企業がサポートしている。ファイナリストは、素材見本市プルミエール・ヴィジョンに出展する企業の提供素材を使用でき、企業によっては素材開発に協力してくれる。さらに、シャネル(CHANEL)傘下のアトリエの協力により、職人技を生かした装飾を施すことも可能だ。同フェスティバルのファイナリストに選出されれば、一流ファッション企業の仕事に触れることもできるのだ。
今年のグランプリ・プルミエール・ヴィジョン賞に輝いたのは、ドレヴ・エルロン(Dolev Elron)によるメンズウエアだ。エルロンはイスラエル出身の28歳で、現在「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」に勤めている。ジーンズやチェックシャツといったリアルクローズに、フォトショップで作成した歪んだカーブのプリントを反映。まるで仮想世界と現実を融合させたように、ランウエイでは目の錯覚を誘う効果があった。そのプリントに合わせた曲線的なカットワークも特徴だ。審査員長デ・フェリーチェは、「受賞者を選ぶのはとても困難だったが、エルロンの作品は明快なビジョンがあり、説明がなくても視覚的にコンセプトが伝わってくるものだった」とコメントした。
また、ファッション部門のファイナリスト10人には、東京出身の鈴木健志郎も名を連ねた。鈴木はバッグブランドのデザイナーとして経験を積んだ後、ジュネーヴ造形芸術大学(HEAD)でファッションを学び、現在は東京に拠点を置く。フィルムカメラで撮影した自然風景を着想限に、土壌に還る生分解性の素材にナチュラルダイを施したウエアは、特にパターン技術が目を引いた。受賞は逃したものの、今後は自分のブランドに専念するかを時間をかけて思案中だという。