ジェンダーギャップ指数142位の国で、私がマラソン中に倒れて気づいたこと
目の前で人が倒れた。 そこに遭遇したら、あなたはどうするだろうか。 総務省・消防庁が発表したデータ(1)によると、令和5年中の救急自動車による救急出動件数は 763 万 7,967 件。対前年比 40 万 8,395 件(5.6%)増、搬送人員は 663 万 9,959 人、対前年比42 万 2,676 人(6.8%)増で救急出動件数、搬送人員ともに対前年比で増加し、集計開始以来、最多となったという。 【写真】朝のパキスタンの町の風景。女性が見当たらない… また、令和4年中に一般市民が心原性心肺機能停止の時点を目撃したのは2万8,834 人であり、そのうち半数以上の1万7068人が心肺蘇生を実施されている。そのうち1ヵ月後生存者は 2,190 人、1ヵ月後生存率は 12.8%であり、心肺蘇生を実施しなかった場合の1ヵ月後生存率は 6.6%となっている。つまり、たとえば心肺停止の場合、居合わせた人が心肺蘇生をしたか否かで生存率がおよそ倍も違っているのだ。 それを実体験から考えさせられたというのが、現在、南アジアの気候変動・防災とジェンダーの専門家として働く大倉瑶子さんだ。 命にかかわるような状況ではなかったそうだが、マラソンで倒れて気づいたことは。
ハーフマラソンで両足がつった
「大丈夫ですか?」「何か必要なものはありますか?」 私は、痛みのあまり、道に横たわって、小さな悲鳴をあげていた。見上げると、心配そうに見守る何人もの表情があった。 私はハーフマラソンを走り切った直後、両足をつった。ふくらはぎ、前もも、足のあらゆるところが固まり、痛みが収まらない。立ってられず、そのまま道に倒れこんでしまった。 人が、かけよってきた。中には、救急隊員もいた。次々と、バナナやスポーツドリンクを差し出してくれる。水分と栄養の補給は大事。でも、一番求めていたのは、足をストレッチしてもらうこと。特に、ふくらはぎを伸ばしてもらいたかった。でも、それをしてくれる人、いや、”できる”人は、いなかった。 そう、私がいたのはパキスタンのイスラマバード。1年半前から、仕事で駐在している。宗教や社会の慣習・マナーとして、親族以外の異性に触れるのは、基本的にタブー。参加するビジネス・ミーティングでも、まわりの男性陣がみんな握手を交わす中、女性なので、胸に手をあてて、軽く会釈をするのが日常だ。 パキスタンのジェンダー・ギャップ指数(2)は146か国中142位と、下から5番目だ。都市部と地方で差はあるものの、男性の親族の帯同なく、外を出歩くことができない女性は多い。親族以外の男性とのかかわりへのタブー視やハラスメントへの心配が、主な原因(3)だ。私が暮らすイスラマバードは首都のため、比較的自由がきくが、それでもひとりで道を出歩く女性は、ほぼ見ない。