美術愛好家を悩ませる “もう一つのモナリザ”が公開されて話題に…真贋の議論に決着つかず
ルネサンス期を代表する芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされるある絵が、イタリアの展覧会で公開されている。この絵を管理する団体は、描かれているのは若き日のモナリザで、ダ・ヴィンチによる本物だと主張している。これに対し、美術界では懐疑的な見方もあり、物議を醸す展示となっている。 【写真・動画】物議を醸している“もう一つのモナリザ”
モナリザの若いバージョンか? 姿勢もそっくり
フィレンツェの商人の妻をモデルとして描かれたとされる、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画『モナリザ』は、ルーヴル美術館に所蔵されている。ところが、実はこのモナリザより若く見え、そっくりな姿勢のもうひとつのバージョンが存在。長らく真贋に関して専門家を二分する謎とされてきた。 問題の絵は、『アイルワースのモナリザ』と呼ばれている。この絵を管理するスイスのモナリザ財団によれば、絵は1778年にイギリス人貴族によりイタリアからイギリスに持ち込まれたとされる。1913年にロンドン西部のアイルワースを拠点とする美術商のヒュー・ブレイカーが買い取ったため、現在の呼び名が付いた。 絵は1962年にアメリカのコレクター、ヘンリー・ピュリッツァーに売却され、1975年からスイスの銀行の貸金庫で保管されるようになった。ピュリッツァーが亡くなり、相続したパートナーもその後亡くなると、絵は無名の人々で構成されるコンソーシアム(共通の目的を持つ個人や団体の共同体)に受け継がれた。その後数か国で展示されている。
財団は自信満々 一方、専門家は懐疑的
そして今、モナリザ財団がトリノにあるプロモトリス・デッレ・ベレ・アルティ・ギャラリーで、「最初のモナリザ」と題した展覧会を開催している。財団は、『アイルワースのモナリザ』はルーヴル美術館のものよりも10年早く完成したと主張。絵の起源に関する長年の研究成果も展示し、ダ・ヴィンチが2枚のモナリザを描いていたことに疑いの余地はないとしている。 一方、財団の主張を否定し、本物ではないとする美術専門家もいる。アートネット・ニュースのインタビューに対し、オックスフォード大学の美術史専門家、マーティン・ケンプ教授は、この作品が『モナリザ』より前のものであることを示す証拠はないと主張。また、『アイルワースのモナリザ』はキャンバスに描かれていると指摘し、木製の表面にしか絵を描かなかったことで知られているダ・ヴィンチとの違いを強調した。 ガーディアン紙でアートのコラムを担当するジョナサン・ジョーンズ氏は、『アイルワースのモナリザ』には個性がなく、ルネサンスの芸術家たちが目指した古典的比率や肉付きのよい写実性もないと指摘。おそらく1500年代から1700年代に作られた下手な模写か意図的な偽物だと述べている。
疑惑は晴れずとも高額に…芸術の真の価値とは?
ジョーンズ氏は、鑑定の結果本物のダ・ヴィンチ作と判定されつつも、贋作疑惑が完全に払拭されなかった『サルバトール・ムンディ』が、2017年に世界最高額の510億円(当時)で売却されたことをあげ、『アイルワースのモナリザ』にも同様のことが起こる可能性はあるとしている。 ケンプ教授も、モナリザ財団は再び『アイルワースのモナリザ』を宣伝しようとしているとアートネット・ニュースに述べ、作品の価値を高めようとする動きである可能性を示唆している。 物議を醸す “もう一つのモナリザ”のトリノでの展示は、2024年5月26日まで行われることになっている。
文:山川真智子