朝ドラ『おむすび』賛否あるが…26歳俳優の演技が”マツケンの名演”にも負けないと言える理由
『おむすび』にも微動がある
少なくとも微動の観点から見ると、本作の佐野にも十分な健闘が期待できそうである。第2週第9回、再び海辺で遭遇する翔也の左側に注目。「ここは俺のランニングコースだ」という翔也のユニフォームの左袖が海風になびく。 実家が農家である結の祖父・米田永吉(松平健)から廃棄分のトマトをおまけで多めにもらったお礼といって、翔也が「すぐ戻ってくっから、ちょっと待ってろ」とひるがえって何かを取りに帰る。待ちくたびれた結が帰ろうとする。そこへ翔也が戻ってくる。 引きの画面。奥から翔也が走ってくる。画面下手側は海。停泊する船が二艘、海風に吹かれてゆらゆらゆれている。ここにも画面上に微動がある。翔也が、トマトに対して出身地である栃木のイチゴをどっさり箱で赤色返しするのも主題的にうまく統一されている。
左側ではなく右側……
まだまだ他にもある。第3週第15回、またしても結と翔也は海辺で鉢合わせる。結は「こわっ、ストーカー?」と思わず言う。翔也がビニール袋で渡してきたのもやっぱりイチゴの箱。どんだけ常備しているんだよ。 栃木弁の「べ」の語尾がやたらなまっているキャラクター性といい、何だか突っ込みどころ満載の愛すべき人物なのだが、それでもこのイチゴと微動という外面性では常に一貫していてわかりやすいキャラクターでもある。 自分だけが夢を持っていないことに漠然と悩み、浮かない顔をしている結に「どした?」と一瞬だけ少し訛りが抜ける翔也のセリフがいい。ここでさらに微動の注目ポイント。今度は左側ではなく右側……。
佐野勇斗は意図的ではないということ
海風が結にも吹き付ける。前髪がぐわっと吹きあがる。対する翔也のユニフォームの右袖、さらにその下に着ている黒いアンダーシャツがやたらとなびいている。とても気になる。 単に撮影現場が海辺で、風がちょっと強いことから偶然、佐野の袖あたりが風になびいているだけなのだろうが、いやでも何かそれ以上の映像的な効果がうまれている。つまり、(海風は自然のもだから当たり前だが)佐野勇斗にとっては意図的ではないということ。ここが重要である。 『虎に翼』の松山ケンイチは、第1回から意識的に動作を行い、最終回へ向け、細やかな動作(微動)へと極めていた。対する『おむすび』の佐野勇斗は、たぶんまだ無意識のレベル。これが演出意図と噛み合いながら、意識的になった途端、本作はぐっと見ごたえある作品になると思う。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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