「世界に類を見ない投手になりたい」 山本由伸が語っていた大いなる野心
体格に恵まれていたわけではない。ドラフト上位だったわけではない。それでも山本由伸投手はオリックス入りして2年目のシーズンには頭角を現し、5年目には最多勝投手となる。その後の活躍はあらためて触れるまでもない。そして今年、ドジャースでの活躍は日本中を沸かせた。 【写真を見る】山本由伸投手の勇姿 その華々しい実績をどう捉えていたのか。スポーツライター、中島大輔氏の問いに対して本人は驚くほどクールな答えを返していた。(デイリー新潮2023年2月17日配信の記事を再構成しました。年齢などは当時のものです)〈5回連載の第5回〉【中島大輔/スポーツライター】 ***
松坂やダルビッシュと異なり、山本は高校時代から脚光を浴びたわけではない。プロ入り後に頭角を現し、高卒5年目に投手4冠(最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振)を獲得、最優秀選手と沢村賞に選出された。 当時23歳にしてプロの頂点までたどり着いたことを、本人はどう感じているのか。2022年の春季キャンプが始まる数日前、直接尋ねた。 「どうでしょうね。いい方向にきているなとは思いますけど。正直、特に何もないです」 賞やタイトルはあくまで他人との比較で決まるものだから、何も感じないのか。 「本当に、特に何もないです」 威勢のいい言葉を引き出したかったわけではない。自身の成長スピードをどう捉えているのか、率直な胸の内を聞きたかった。 だが、山本は「何もないです」と繰り返すばかりだった。 言葉をどう継ごうかと思案する私の胸中を察してくれたのか、隣で聞いていたトレーナーの矢田修が助け舟を出してくれた。 「素敵な女性がおったとしますよね。モノにしたいと思うじゃないですか。彼にとっていろんなタイトルは、その女性の家族くらいにしか思っていないと思うんです。狙っているのは、その女性であって。でも、女性の家族もうまいこと付き合わなかったら、モノになれへんし。でも狙っているのは女性の家族じゃなくて、その女性だから。そういう感じだから、(タイトルをいくつ取っても)気楽にしていられると思うんです」