<春へのキセキ・智弁学園>/上 激戦乗り越え一つに 課題のチームワーク不足克服 /奈良
「力はあっても、バラバラだった」。智弁学園で1年から主力の西村王雅投手(2年)は発足時の新チームの様子をこう語る。小坂将商監督が「今年は甲子園でも優勝を狙える」と期待するほど、経験豊富で才能の光る選手がそろう一方、「チームワーク」不足が大きな課題だった。 新チーム初の公式戦となった近畿大会県予選は不安の残る滑り出しだった。山下陽輔主将(2年)は郡山との初戦を「負け試合がたまたま勝てただけ」と振り返る。接戦に苦しみ、5―3でなんとか逃げ切った。 その後、二つのコールド勝ちなどを経て調子を取り戻し、決勝へと駒を進める。ライバル・天理を相手に七回表までは同点と競り合ったが、七回裏に打者一巡の猛攻で一挙6点を奪われ、負けを喫した。優勝には、あと一歩届かなかった。 敗因は、打線の勢いを生かせず、投手を援護する守備のチームワーク不足にあった。悔しさを抱えながらも、選手らは気持ちを切り替えた。三垣飛馬選手(2年)は「『意識を変え、全員で努力していかないと』と皆で気合を入れ直した」と当時の様子を明かす。ゴミ拾いをしたり、身なりを整えたりと野球以外の生活面にも細かく気を配った。「チームをもっと強くしたい」との一心で鍛錬に耐え、努力を重ねた。 約2週間後に迎えた近畿大会。滋賀学園(滋賀)との1回戦では、延長十回の逆転サヨナラ勝ちを収めた。「全員で勝ち切ろう」と最後まで諦めない姿勢が実を結び、この一勝がその後のチームを勢いづけた。 龍谷大平安(京都)、市和歌山(和歌山)との対戦では、持ち前の打力と投手陣の好投で本領を発揮。実戦が増える秋は「1試合ごとに力がついていく」時期でもあり、小坂監督は「毎週楽しみながら勝ち上がっていった」と話す。 決勝で立ちはだかったのは、それまで5連敗していた大阪桐蔭(大阪)。「勝って監督を泣かせたい」と必死な思いで好投手陣を打ち破り、7―3で近畿の頂点に輝いた。発足時、バラバラだったチームは激戦を乗り越え、初めて一つになった。【林みづき】 ◇ 3月19日、阪神甲子園球場で開幕するセンバツ。県勢からは2年連続で智弁学園(14回目)と天理(25回目)がそろって選出された。聖地への春切符をつかんだ両校ナインの軌跡を振り返る。