あっと驚くエンディング! Netflix、U-NEXT、AppleTV+で今週見るべきおすすめ配信ドラマ
最後まで読めないストーリー展開やどんでん返しがある配信ドラマ、Netflix『私のトナカイちゃん』、U-NEXT『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』、AppleTV+『シュガー』の3作品を紹介する。 3作品のあらすじとみどころを写真でチェックする
――『私のトナカイちゃん』―― ■タイトルに騙されないで! しっかりダークなコメディ作品 主人公のドニーは売れないコメディアン。バブでバーテンダーとして働きながら生計を立てていたが、ある日マーサと名乗る女性が店を訪れる。お金がないから何もオーダーできないと泣くマーサに同情したドニーは、紅茶を無償で提供する。すると翌日からマーサは、ダイエットコークを一杯だけ頼み、料金も支払わず開店から閉店まで居座るようになる。自称弁護士のマーサは、ドニーを”トナカイちゃん”と名付け褒めちぎり、毎日何十通ものメールを送りつける。弁護士なのにお金がないという矛盾をおかしいと思いつつ褒められると突き放せないドニー。しかし、ついに毎日無償で飲み物を提供するのはおかしいと、代金を請求するとマーサは突如暴力的になり、店を出禁になってしまう。ドニーがインターネットで彼女のことを調べると、マーサにはストーカーの罪で逮捕歴があった。 ■主人公を演じたリチャード・ガッドの実話を元にした 公開翌週にNetflix世界ランキングで1位を獲得し話題になったミニシリーズ。本作は主人公ドニーを演じた作家でコメディアンのリチャード・ガッドの実体験を元に作られた一人芝居をドラマ化したものだ。際限なく常軌を逸していくマーサは猟奇的で恐ろしいのだが、なんとも煮えきらないのがドニー。観ている方は早く警察に行って!とやきもきするも、コメディアンとしては泣かず飛ばず。お金もなく、彼女にも愛想を尽かされたドニーにとって自分を褒めてくれるのはマーサしかおらず、無下に警察に突き出すことができなかった。しかもドニーは心に大きなトラウマを抱えており、自分を愛することができなかったのだ。 マーサは狂気に満ちている一方でユーモラスでチャーミングな部分もある。彼女を演じたジェシカ・ガニングの演技は見事で、つい心を許してしまうドニーの気持ちも分からなくはない。中盤まではもしかして心を病んだストーカーと負け犬コメディアンが結ばれるラブストーリーなのか、と思わせるが、残念ながらそんな甘い物語ではない。 ■落ちるところまで落ちた自己肯定感 物語中盤、ドニーのトラウマの原因が明かされる。それは許しがたく悲しい出来事で、それ以来ドニーは自分を大切にすることができなくなってしまった。そこに現れたのが怖いほど執拗に愛情表現をするマーサというわけだ。名声を得るために自分を犠牲にしたことに自己嫌悪の念を持ち続けるドニー。自身の性的嗜好を変えてしまうほどの壮絶な体験を乗り越えるために、ドニーは驚くべき行動に出る。鑑賞後もしばらくマーサの笑い声とドニーのトラウマが心にずしんと横たわり、考えを巡らせてしまう作品だ。 Netflixシリーズ『私のトナカイちゃん』独占配信中 ――『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』―― ■太陽が昇ることのない極夜に起きた失踪事件 舞台はアラスカ州エニス。12月末、極夜が始まった日を境に街の外れにある科学研究所に勤める学者たちが全員忽然と姿を消してしまう。地元警察署長のダンヴァーズと州警察官のナヴァロが事件の捜査にあたるが、この二人には過去に確執があり、捜査は一筋縄ではいかない。季節は極夜ゆえ、太陽が昇ることはない日が続く中、街の辺境に住む女性からの通報を受け駆けつけた警察官たちは、氷原で折り重なるようにして凍っていた科学者たちの遺体を見つける。しかも彼らは服を着ていなかった。一体彼らの身に何が起こったのか。溶けることのない氷の下に眠る呪われた真実が明らかになる。 ■ジョディ・フォスターとカーリー・レイスの名演 シリーズ4作目となる本作は、前作の『トゥルー・ディテクティブ/猟奇犯罪捜査』から5年を経て待望のカムバックを遂げた。これまでのシリーズと同様、猟奇的な殺人事件を追う2人の刑事のバディもので、本作は初の女性コンビとなった。警察署長リズ・ダンヴァーズを演じるのが、ジョディ・フォスター。相棒のナヴァロ役は、俳優兼プロボクサーのカーリー・レイスが演じた。有能だが思いやりに欠け、継娘ともうまくいっていない白人のダンヴァーズ、母や友人の死を乗り越えられず、女性の不遇に対しての過度の思い入れをもつ先住民の血を引くナヴァロ。心が壊れてしまっているふたりは、まるで合わせ鏡のようでもあり磁石のS極とN極のようでもある。事件が解決に向かうにつれ、傷ついたふたりの心も再生していく。 ■企業による環境汚染や資本主義への警笛 舞台となるエニスは実際にある街ではないが、アラスカ州最北端の地域、ノース・スロープ自治区をベースにしているという。極夜が始まった日に事件が起こるため、各シーンが朝の時間帯なのか夜なのか、明確にはわからないという極夜体験ができるのも、本作のおもしろさのひとつだ。環境汚染、貧困、先住民との確執、女性蔑視など、さまざまな社会問題や、極北の地に伝わる言い伝えや心霊現象などをストーリーに巧妙に取り入れ、ミステリーものとして成立させているのは見事。敵対していた女性たちが共闘していくシスターフッド要素も満載で、あっと驚くエンディングに心を打たれる。前作までは8エピソードで構成されていたが、本作は6エピソードというのがファンとしては残念だったが、今後もシリーズが続いていくことを期待したい。 『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』U-NEXTにて見放題独占配信中 ――『シュガー』―― ■ロサンゼルスが舞台のクライムミステリー 舞台はロサンゼルス。私立探偵のジョン・シュガーは、ハリウッドの大物映画プロデューサーから行方不明の孫娘オリヴィアを捜す依頼を受ける。オリヴィアの父や兄に話を聞きに行くも、「いつもみたいに呑み歩いているだけで、すぐ帰って来るさ」と取り付く島もない。むしろ捜査なんかしてくれるなといった態度。どうやら彼らには知られては困る秘密がある様子だ。巧みに妨害をかわし捜査を続けるシュガーだったが、オリヴィアが所有する車のトランクに死体があるのを見つける。しかし翌日その死体は消えており、オリヴィアを追っているのは自分だけではないと気づく。 ■映画オタクのための映画オタクによるドラマ ジョン・シュガーを演じるのはコリン・ファレル。オリヴィアの継母を『ブレイキング・バッド』でスカイラー役を案じたアンナ・ガンが演じた。シュガーは、映画好き、というか映画オタクという設定で、家に侵入する時、ウィスキーを飲む時など、往年のモノクロ映画の同じようなシーンを脳内再生し、ハンフリー・ボガートやグレン・フォードになりきる。作中ではそれらの往年映画のモノクロ映像が挿し込まれ、何の映画だっけとネタ探しをするのも映画好きには楽しい。無論、リファレンスなど分からずとも楽しめる。 ■モダンな男らしさを一体どこで身につけたのか また探偵ものといえば、主人公のモノローグが定石だが、本作でも”まるで映画の主人公のような”シュガーの独白は多い。『復讐は俺に任せろ』のグレン・フォードや『大いなる別れ』のハンフリー・ボガートなどハードボイルドな人物に憧れる一方、シュガーはとてもスマートで現代的。捜査の過程で、深夜に女性の自宅を訪れ夜の誘いを受けるものの、その振る舞いはとても紳士的で一夜をともにすることはないし、暴力をとことん嫌っている。往年映画の”ハードボイルドな男らしさ”とは異なる男性像がそこにはあり、一体どこで身につけたスマートさなのだろうか、と疑問に思うだろう。さらにシュガーは複雑な過去をもち、身体にも何かしらの疾患があるようだと匂わされる。所属している組織も謎で、事件は一歩一歩解決に向かうものの、シュガーの出自に関しては謎が深まるばかり。あまりネタバレはしたくないが、意表を突かれすぎて思わず笑ってしまうエンディングであることは伝えておく。 『シュガー』AppleTV+で配信中
編集と文・遠藤加奈(GQ)