【漫画家に聞く】美大進学に挫折した男、再び筆を手に取った理由は……「創作」の本質に迫るSNS漫画が美しい
美術大学への進学を目指し浪人しつつ、美大とは異なる大学へ進学した男子学生・トオル。彼が再び創作と向き合う様子を描いた漫画『naniiro』が2024年7月にpixivで投稿された。心に引っかかっている過去、兄と比較した際に浮かび上がるコンプレックスに悩むなか、トオルはどのようにして創作と向き合ったのかーー。 美大進学に挫折した男、再び筆を手に取った理由は……漫画『naniiro』 作者のカワユウさん(@munaita5okuen)も美術大学に受験・合格し、これまで創作活動を続けてきた人物。本作を創作したきっかけ、創作をテーマにした背景など、話を聞いた。(あんどうまこと) ーー本作を創作したきっかけを教えてください。 カワユウ:本作は以前に描いた短編漫画のサイドストーリーとして描いた作品です。その作品でもトオルは登場しますが、本作に登場する女の子が主人公でした。ただトオルも重要な人物だったので、彼の価値観をベースにした話も描いてみたいと思い本作を創作しました。 前作の時点で絵の才能がある女の子と、挫折をしたトオルでは共感する読者が分かれると思っていました。自分はどちらかと言えばトオルの価値観に近しい方であり、自身の経験をもとにトオルの感情を予想しながら描きました。 ーートオルさんを描くなかで意識したことは? カワユウ:人間味があるキャラクターにしたいと思っていました。美術とは異なる大学へ進学したことを割り切っているように見えますが、美術大学への進学を目指した過去を諦めきれていないことや、女の子に言ったことを後悔していることがわかるように描きました。 過去に対する未練はそう簡単に割り切れるものではないけれど、それでも頑張らなきゃいけないーー。そんなことを表現できるよう意識しながらトオルを描きました。 ーートオルさんにとって回想として出てくる女の子は呪いのような存在にも見えてしまいます。 カワユウ:トオルの回想に出てくる女の子は、実際には作中の台詞のようなことを言うようなキャラクターではありません。トオルの心の中にあるわだかまりが具現化した存在に近いと思います。 ーー挫折を経験したトオルさんと対照的なお兄さんとの関係を描くなかで意識したことは? カワユウ:トオルにとって兄は自分の目標としてポジティブな存在であることを描きつつ、同時に完璧な存在によってトオルの劣等感を生み出すきっかけにもなっていることを意識しました。とくに兄弟がいる人には共感できるような、人と人とのリアルな関係を意識しながらトオルと兄の関係を描きました。 ーー印象に残っているシーンは? カワユウ:トオルにとって兄は自分の目標としてポジティブな存在であることを描きつつ、同時に完璧な存在によってトオルの劣等感を生み出すきっかけにもなっていることを意識しました。とくに兄弟がいる人には共感できるような、人と人とのリアルな関係を意識しながらトオルと兄の関係を描きました。 ーー後者のシーンはトオルさんのわだかまりが溶け、女の子の本当の姿が描かれたシーンでもあるかと思います。 カワユウ:その通りです。 ーー美術、才能をテーマに本作を創作した思いは? カワユウ:自分も芸術大学を受験・卒業したのですが、本作は大学受験や漫画家を目指していたときの感情や挫折が創作のきっかけになってます。 美術に限らず、進路に悩んだり、なにかに挫折する経験は誰しもがあると思います。悩んだり挫折したときに少しでも「大丈夫だよ」とか「頑張っているあなたは素敵だし、何とかなるよ」と思える、前向きな気持ちになれる作品が描きたいと思い、本作を創作しました。 ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。 カワユウ:小さいときから絵を描くことが好きで、小学生のときにはノートに漫画を描いたりしていました。高校生くらいから漫画をちゃんと描いてみたいと思うようになり、制作した漫画をSNSに投稿すると「面白い」と言ってくださった方がいて。その声が嬉しくて、もっとちゃんと漫画を描いてみたいと思うようになりました。 ーー今後の活動について教えてください。 カワユウ:現在は社会人なので、漫画を描きたいときに、描きたいものをゆっくりと描いていきたいと思います。作品を発表するペースは遅くても、生涯に渡ってゆっくりと創作活動を続けていきたいです。 ーー漫画で表現したいものは? カワユウ:人の心の柔らかいところ、そして強いところを漫画で表現していきたいと思っています。なにかに悩みつつも、決して諦めない人はすごく素敵だなと思うので。 また読者の方があたたかい気持ちになるような、優しい人間関係も描いていきたいです。
あんどうまこと