「殺人事件そのままの血痕だってカビキラーと激落ちくんで落とせる」松原タニシと“恐怖”の現在地
いまなお事故物件に住み続ける理由
――いまなお事故物件に住み続けるのも、よりインパクトの強い体験を期待してのことでしょうか。 インパクト……そうですね。期待される感じのインパクトとは違うかもしれませんが。どれだけ陰惨な事件や、悲惨なことが起こったかというより、なぜかそこに住むと精神に異常をきたすとか、必ず死ぬとか言われている物件には、住んでみたいですね。 本当に自分もおかしくなるのか、確かめたいんです。でも、意外とそういう物件には住めていないんですよ。住みたいと思って問い合わせても、募集をやめていたり、別の人が入ってしまったりで、タイミングが合わない。 ――何かに守られているのでしょうか。神仏とか、守護霊とか。 それを信じてしまうと、検証の意味がなくなります。そんな見えない力に頼るより、自分でちゃんと検証して、恐怖を乗り越えたいんですよ。事故物件でも、防犯・防災意識をちゃんと持って、普通に楽しく暮らしていれば、恐怖に飲み込まれたり、死に引っ張られることはないと思っています。一方で、想定外の出来事を期待してもいるわけですが。 ――わからないことは自分で確かめてみたいという気質は、もともとですか。 そうですね。事故物件も最初は恐いな、嫌だな、って思っていましたが、当時は仕事もなかったし、誰もやってないから面白そうだなって。霊のせいとか、事故のせいとか、そういう思い込みみたいなものを取り外していくと、怪談がぶち壊しになってしまいますが、ぶち壊したうえでちゃんと恐いものを探しています。
本当に恐いのは人間というよりも……
――そういえばタニシさんは「霊現象が起こるのは殺人事件があったから」みたいな、安易な理由づけはしないですね。 純粋に……って自分で言うのもアレですけど、事実をそのまま受け止めたいんですよ。よくわからない現象に自分の憶測を加味して人を恐がらせるのは好きじゃないですね。そんなことをしなくても、恐いものは恐いので。 ――検証を進めるうえで、危機感を抱くことないですか。これ以上追求するのは危ないなって。 その場合は、なんとか別の方法を考えますね。正面突破は危ないなと思ったら、横から、裏から入る方法を探すとか、ちょっと時間をおいてみるとか。ただ、自分の興味や好奇心を突き詰めていくと、当たり前にそこある人々の生活を壊してしまう可能性もある。そこは敏感でいなければと思います。人間同士の付き合いや、長年の営み、何かを頑なに信じる文化からくる恐さは、取り扱いが難しいです。 ――「死」そのものについてはどうでしょう。 死ぬことは恐いですよ、もちろん。だけど、よく言われるように、自分が年を取ると、身近な人の親や、知り合いが亡くなることもぼちぼちあって、「人は死ぬ」ということについては、ごく自然なことだと受け入れています。 何軒もの事故物件に住んで思うのは、亡くなった人の残したもの、人生そのものも、他者にとっては価値がないんだなということですね。だから、あたふたしてもしょうがない。生きた証を残そうとかいうのも、あくまで自己満足の世界だと思います。 ――ちなみに、事故物件じゃないお部屋もお持ちなんですか。 普段余り使わない荷物を置いておく用の部屋を借りています。姉の事務所の近所にめっちゃ安い物件があったので。でもそこも結局、事故物件だったんですけど。 ――え! なんですかその話。どこまでも因果な人生ですね……。 そうですね。また面白い怪奇現象があったら報告しますね。 松原タニシ(まつばら・たにし) 1982年、兵庫県生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。ここ10年は“事故物件住みます芸人”としても活動し、2024年7月現在までに17軒の事故物件を渡り歩く。レギュラー番組『松原タニシの生きる』(ラジオ関西)、『松原タニシの恐味津々』(MBSラジオ)などのほか、怪談企画の番組、怪談イベントに多数出演。著書は、映画化もされた『事故物件怪談 恐い間取り』のほか、『異界探訪記 恐い旅』『死る旅』『恐い食べ物』(すべて二見書房)などがある。 X @tanishisuki 恐い怪談 定価 1,650円(税込) 二見書房
伊藤由起