「殺人事件そのままの血痕だってカビキラーと激落ちくんで落とせる」松原タニシと“恐怖”の現在地
事故物件住みます芸人・松原タニシさんの新著は『恐い怪談』(二見書房)。事故物件だけでは飽き足らず、数々の心霊スポットやいわくつきの場所を巡り、思い込みや妄想の類を排除しながら恐怖の本質を追求してきたタニシさんが、いまなお心惹かれる “恐い”怪談とは。その魅力や味わい方について聞いた。 【画像】螺旋階段の下にある石碑。どこか神々しいのは気のせいだろうか。
何が恐いのかわからなくなってきたんです
――事故物件住みます芸人ならではの視点で書かれたタニシさんの著書は、これまでも斬新で恐かったと思います。でも、タニシさん自身は、恐さに慣れてしまった部分もあるのでしょうか。 そうですね。事故物件に住むようになって10年以上になりますが、最初は「事故物件」というだけで恐かったし、電気が点滅したり、変な音が聞こえたり、おかしな写真が撮れるといった怪奇現象もすごく恐くてたまらない反面、面白かったんです。 とはいえ、そういう現象ってめったに起こらないし、起きたとて、ほとんどの場合は命に関わるわけじゃない。電気製品が壊れたり、謎の頭痛や蕁麻疹に見舞われたりするとイヤだな~とは思いますが、恐いわけじゃないんですよね。幽霊をはっきり見たわけでもないし、見たとしても日常生活に支障がなければいいか、って。 人がよく死ぬ物件にしても、単純にその物件の治安が悪い場合もあれば、住人自身にまつわる外的要因で亡くなることもあります。原因がわかれば、それを避けたり取り除くことで恐くなくなるはずなんですよね。 ――『事故物件怪談 恐い間取り3』でも、玄関が血まみれになっている事故物件をあっさり克服されていました。 そうそう。3カ月限定で、殺人事件のあった家をそのまま(清掃前に)借りたんですよ。心霊スポットの場合、そこに足を踏み入れるときは恐いんだけど、しばらくいると恐怖が薄れて、帰りには全然恐くなくなっている。事件現場も、それは同じだなと思いました。 血痕は、カビキラーと激落ちくん(メラミンスポンジ)で取れました。血痕はただの血痕で、それ以上でもそれ以下でもなかった。ただ、その物件には、謎の小部屋がありまして……。 ――その後日談は『恐い怪談』にありますので、ぜひ読んでいただきましょう。 そんなふうに、事故物件=恐いという思い込みを排除して眼の前の現象を捉え、恐怖をひとつひとつ克服していくと、だんだん自分が何を恐いと思うのか、恐いってどういうことなのか、わからなくなってくるんです。 心霊スポットやいわくつきの場所に出かけていくのは、そこには僕の知らない、純粋に恐いものがあるのかもという期待があるからです。仕事柄、たくさんの怪談を聴いたり読んだりしていると、ある程度パターンが読めてくるのですが、それでも探していくと、「そんなパターンがあったのか!」という変な話に出合えますから。 ――そんなタニシさんがいまなお惹かれる怪談とは? 『恐い怪談』にもいくつか入っているのですが、やはり原因のわからない、意味不明な話が好きですね。突拍子もない現象が、思い込みとか、勘違いとかではなく起こっているという現実に興味があります。