センバツ2023 智弁和歌山、「日本一」夏に持ち越し なお発展途上、初戦敗退 /和歌山
あと一本が出なかった――。3年ぶり15回目のセンバツ出場となった智弁和歌山は19日、英明(香川)に2―3で敗れ、初戦で姿を消した。序盤から再三好機をつくったが、バッテリーを中心とした相手の粘り強い守りを前に、流れをつかめなかった。その強打も鍛えてきた守りも、なお発展途上。掲げてきた「日本一」の目標は、夏に持ち越された。【大塚愛恵、安徳祐】 聖地の初戦は、昨夏に続いて、またも智弁和歌山に厳しかった。それでも、「日本一」の夢に果敢に挑んだ選手たちには、アルプスから盛大な拍手が送られた。 チーム初安打は一回裏、出塁を期待される先頭打者の多田羅浩大(3年)だった。母直美さん(50)は「初戦で初回の打席。ドキドキしたが、打ててほっとした」。二回裏には下位打線がつながり、吉川泰地(同)と杉本颯太(同)の連続安打から満塁の好機をつくるも、あと一本が出ない。残塁の続く、もどかしい展開だ。 試合前にノッカーを務めたOB、沖寛太さん(18)が「緊張している様子だった」と話した通り、選手は力んでいたのだろうか。2021年夏の優勝メンバー、高嶋奨哉さん(19)は「1点取れると変わってくる」と見守っていた。 六回に試合が動く。表に先制されたものの、裏にすかさず反撃した。松嶋祥斗(2年)の左前打からの2死三塁の好機に、杉本が中前適時打を放った。「タイミングを早く取った。ジョックロックの流れる中で打ちたいと思っていたので、感動した」と振り返った。「打ったときには、声を上げて叫んだ」と言う母梨美さん(42)は「センター中心に打つ練習をしていると聞いていた。きれいに打てて良かった」と歓喜の表情を浮かべていた。 しかし、追いついたのもつかの間、八回表に2点を勝ち越された。再び追う展開となった八回裏、球場にその名を連呼する大声援が響き渡る中、清水風太(3年)が中前適時打を放ち1点を返した。 その強打で同点、逆転劇を信じるアルプス。九回裏、先頭の主将の青山達史(同)が、その期待に後押しされたような幸運な二塁打で出塁した。「後続に良い打者がいるので、何とか塁に出なくてはと無我夢中だった」。しかし、その後三塁まで到達した主将の思いは、届かなかった。母晴美さん(56)は「本人も悔しいと思う。夏に向け、また一生懸命頑張ってほしい」と涙を拭っていた。 掲げた「日本一」への道のりは簡単ではないことを改めて突きつけられたチーム。しかし、選手の背中からは、試合中のプレーそのまま、「諦めない」との思いがあふれ出ていた。 ◇浮かぶ「C」 声出し応援で鼓舞 スタンドに浮かび上がった智弁和歌山伝統の「C」の文字。昨夏は新型コロナウイルス対策で、生徒たちの座る間隔を広めに取ってつくったが、今春はコロナ禍前の密度で実現させた。生徒や保護者ら総勢約3000人が詰めかけ、選手に勇気を与えたスタンドの応援。応援団とチアリーダーの坂上寿英顧問は「智弁和歌山の応援は、アルプスにいる全員が一丸となってこそ」と振り返っていた。 今回、声を出しての応援も甲子園では2019年夏以来、3年半ぶりに解禁された。16人の応援団員を率いた団長の神保孝成さんは「楽しみで胸が躍る」と話し、団員の浦優斗さんは「全校生徒で出す声の大きさが智弁和歌山の強み」と意気込んでいた。チアリーダーの山本優希さんは「踊りながら声を出すのはきついが、声が届くように練習してきた」と選手たちの名前を球場に響き渡らせ、鼓舞していた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇粘りの投球、前見据え 投手・清水風太(3年) 先制された六回表、なお得点圏に走者を置く場面で救援した。好投してきた吉川泰地(3年)に「任せろ」と声をかけ、後続を断った。冬の間、投げ込んでフォームを改善し、直球の質を磨いた。「球威で押そうと思った」 しかし、相手打線は初球から積極的に振ってきた。八回表2死一、二塁。勝負球のツーシームを左前に運ばれ、勝ち越しを許した。試合後、「投げた感覚は良かったが……」とうつむいた。 投手歴は1年にも満たない。「力まず投げられた」と練習成果を出せた部分もあった。甲子園と思うだけで緊張を強いられたが、八回裏には打者として適時打を放ち、意地を見せた。「ジョックロックが聞こえて鳥肌が立った。抜けてくれと念じていた」と振り返る。 1996年、明徳義塾(高知)で春夏の甲子園に出場した父直さん(44)は「1年時からけがなど挫折も多かった。この場に立たせてもらっているだけで涙が出そう」と雄姿を見守り、「粘り強く投げた」とねぎらった。 出場を裏で支えてくれた上級生に勝利の恩返しができず、悔いが残ったが「夏は自分が投げて抑える」。うつむいた顔を上げ、前を見据えた。【大塚愛恵】