【牙を剥くロシアへの二次制裁】「プーチンの戦争」支えた対中貿易に異変、禁輸分野からふさがれる“抜け穴”
特に中国は、原油の大量購入のみならず、ロシアに対し半導体や電子回路、工作機械など、軍事転用が可能な民生用製品の輸出を継続したとされる。結果、ロシアは防衛産業の立て直しに成功し、ロシア軍の戦争継続能力は維持された。中国とロシアの貿易額は、ウクライナ侵攻がはじまった22年に、輸出入ともに実に、前年比で二桁増の伸びとなっていた。
制裁を強化
そのような状況に変化が起きたのは昨年12月のことだ。米バイデン政権は新たに、ロシアによる制裁回避に関与した第三国の銀行に対して、二次制裁を科す方針を表明。ロシアの軍事産業を支える個人や企業との取引を行ったなどと判断される金融機関を対象とした。 米国内などで事業を営む第三国の金融機関には命取りとなる制裁で、これが対ロシアビジネスを事実上支えてきた中国の銀行の動きを封じ込めた。ロシア企業は、中国からの製品購入で支払いを行うことができなくなった。 ロシア側の報道によれば、米国の制裁導入後、中国の銀行は相次ぎロシアビジネスの見直しを開始した。取引に関与している人物や企業がロシアと関係を持っているかどうかが詳細に調べられるようになり、ロシアの市民権を持つ人物が社長を務める中国企業なども、銀行口座を開設できないなどの事態が発生した。2月ごろからは、中国の銀行から「この取引は当行の内部規定に反している」などと理由で、ロシア側からの支払いが返金されるケースが相次いだという。 米政府は手を緩めていない。4月中旬にイタリアで開催された主要7カ国(G7)外相会合に出席したブリンケン国務長官は、工作機械や半導体など軍事転用が可能な物資が中国からロシアに流入しているために、ロシアの軍需産業が制裁による影響を免れていると、中国を名指しで批判。「中国が、欧州と肯定的な友好関係を築きたいのであれば、冷戦終結以降、欧州の安全保障上の最大の脅威となっているロシアを支援することは許されない」と断じた。 4月に北京を訪問したイエレン米財務長官も、中国の企業や金融機関がロシアによる軍事物資の調達に関与しているとし、制裁を発動する可能性を示唆した。米財務省は5月1日には、ロシアに対し赤外線探知機やドローンの部品など、軍事転用が可能な物資の輸出に関与したとして、中国やトルコ、アゼルバイジャン、UAEなど約300の企業や個人に制裁を科すと表明した。 一連の事態は中国以外の国の金融機関にも当然、影響を及ぼしている。米シンクタンクによれば、バイデン政権の制裁導入を受け、トルコの銀行は24年初頭から、ロシアとの金融分野でのつながりをほぼ完全に解消したという。UAEの銀行も、ロシアからの撤退を開始した。 多くのロシア企業のビジネス拠点として知られるキプロスも、米連邦捜査局(FBI)と金融分野の調査で協力を開始したという。インドも、ロシアからの原油輸入の減少が指摘されている。