大企業が震え上がる「アルファベット4文字」の新規制、問題企業や原産地もDNA調査で即バレ?
● ティア2~3の管理に迫られる企業 トップは覚悟を決めて指針を出せ 冒頭の話に戻ろう。EUDRをクリアするには、そもそも上流のサプライヤーから正確な情報を得るのが難しいことを述べた。ただし、これからは「難しい」といって逃げることも難しい。 筆者は近年、環境対応もだが特に人権問題への対応は、建前から実利へ完全にシフトしたと考えている。もちろん、人権をないがしろにする企業はまれだが、大半の企業は人権が重要だと表面的に謳っていたに過ぎないと思う。 しかし、実際に米国が輸入を停止したり、欧州ではサプライチェーンにおける人権蹂躙を防ぐよう大企業に調査を義務付けたりと動きが本格化してきた。建前ではなく、実利に関わるようになっている。 これまでは大企業であってもティア1(直接の取引をするサプライヤー)だけを管理していれば良かった。しかし、特に消費者向けの商品を生産・販売している企業ほど、ティア2、ティア3までの調査が必要になるだろう。 なお、ティア2とティア3までの調査方法には大きく2つある。1つは、人海戦術だ。上流にどのような企業が存在しているか、ひたすら調べる。現在ではティア構造の管理ソフトも多く販売されており、BCP強化のために活用されるケースが多い。 もう1つは、統計上のアプローチである。特定のティア1と取引がある場合、世界のどこで、どの企業とつながっている可能性が高いのか、類推していくものだ。日本では水野貴之氏の研究が先を行く。 ただ、どちらのアプローチにしても、企業トップの号令が必要だ。 現場の調達・サプライチェーンの担当者は、相当な危機感を持ってティア構造を調べようとしている。ただし、実際には工数もないし、他業務で忙殺され、それどころではない。調達品の調査をしなければ製品を出荷できなくなるかもしれないというのに、積極的な調達は進まない。「トップに理解させるにはどうすればいいのか」と苦悶する現場は多い。長く、調達とサプライチェーンは日本企業において経営のトピックスではなかったから、重要性がまだ理解されていないのかもしれない。 今回は、EUDRをはじめ、同位体検査による生産地の判別、製品出荷停止の可能性、上流ティア管理の重要性を説明した。環境も人権も建前から実利にシフトしている。まさに、調達・サプライチェーンの課題は経営問題に直結する。改めて、トップの指針が必要だと思う。
坂口孝則