氷上の新格闘技?!初上陸レッドブル・クラッシュドアイス横浜大会でメダルを狙う36歳“レジェンド”山本純子の決意
昨年7月に2015年、2018年の世界チャンピオンのスコット・クロクソール氏が来日、特別コーチとして出場選手の選考会を兼ねた研修会を開いた。山本も、そこに参加、スタートのアドバイスをもらった。 「姿勢を上下動させないように! もっと上半身を使っていい!」 オフはインラインスケートや札幌のリュージュのコースをスケート靴で滑走してスピード感覚やバランス感覚を養う。今回は特に技術が似ているインラインスケートに時間を割いた。月に一度、今大会に参戦するインラインスケートの世界王者、安床栄人、武士(やすとこ・えいと、たけし)兄弟が練習拠点としている神戸東灘区の「“g”スケートパーク」に通い技術を磨いてきた。そこでは安床兄弟から、レース中の目線を置く場所と、斜面を滑る際のスタンスについての指摘を受けた。 今まで恐怖心に押されてか、知らず知らずのうちにスタンスが狭くなっていた。それではジャンプ後の着地などで安定感に欠く。安床兄弟の助言で肩幅ほどのスタンスをキープすることを意識するようになって安定感が生まれてきた。 だから「オフの成果を横浜で生かしたい」との思いがある。 雪の国、北海道の苫小牧在住。地元の苫小牧ケーブルテレビに製作スタッフとして勤務する傍ら地元のアイスホッケーチーム「大東開発ネクサス」に所属してFWとしてプレーしている。出生地は偶然にも横浜だが、育ちは長野の軽井沢で、7歳からアイスホッケーを始め強豪の「軽井沢フェアリーズ」でプレーしていたが、よりアイスホッケーを突き詰めたいと考えて25歳で苫小牧に移住し強豪の「DKペリグリン」へ移籍した。「クラッシュドアイス」との出会いは、深夜のスポーツ番組。迫力満点の映像が流れた。 「かっこいいと思った」。山本はメモに「レッドブル」と書き込んだ。何か月かして今度は早大アイスホッケー部の猿渡亮さんが挑戦している話題がまたテレビで紹介されていた。 「当時、エクストリーム、ストリート系の世界規模の大会が盛んに行われていて日本人が活躍していた。このスポーツはホッケーに近いものがあり、絶対にやりたいと思った」 山本は早大アイスホッケー部宛に猿渡さんへの手紙を書いた。 「どうしたら出場できるか、詳しいことを教えてくれませんか」 すぐに返事がきた。 連絡をとると偶然にも国内での選考会があるという。 2010年2月に札幌で行われた選考会の女子の部で優勝。3月のカナダ・オタワ大会へ招待され出場した。16人がクリアできる予選を17位で通過できずに涙したが、ここから山本のクラッシュドアイスにかけた青春が始まる。 ちなみに、32歳となった猿渡さんは、今大会にホスト国枠で出場する。 異色の氷上レースへの挑戦は苦労の連続だった。 海外遠征は、会社に有給をもらって行くが、必要経費はすべて自費。その経費を確保するため、アスリートの支援財団に2年間、世話になった。今季は苫小牧ケーブルテレビの親会社がスポンサーとして遠征費をサポートしてくれる。航空チケット、宿泊、現地の移動手段なども自分で手配。各国のどの選手も経費を節減しているため、連絡をとりあい、ルームシェアし、現地での会場への移動も約20キロの道具の入った大きなバッグを背負いバスなどの公共交通機関を使う。 「まるでバックパッカーです」 現地での大会説明などもすべて英語だが、当然、通訳もいない。いつも一番前の席に陣取って、聞き逃すまいと身を乗り出すが、英語に堪能なわけではなく最初は苦労した。 だが、本当に辛いのはレースでの敗北だった。 「負けることがほとんどだったので、負けと向き合うことが辛かった……」