「研究は失敗が当たり前」ノーベル化学賞受賞者・鈴木章の名言再録
北海道大学名誉教授でノーベル化学賞受賞者の鈴木章さんがこのほど、大阪府豊中市の大阪大学で開かれた「大阪大学未来トーク」で「有機ホウ素化合物を用いるクロス・カップリング反応」と題して、学生や市民に講演した。講演に続き、会場の学生の質問にこたえるかたちで、研究に対する心構えなどを披露した。有機化学というジャンルを超え、研究や仕事のヒントになりそうなので、「鈴木語録」を再録しよう。 「9条」もノミネート ノーベル平和賞はどう決まる? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
失敗に強い学生と弱い学生がいる
鈴木さんは1930年北海道生まれ。北海道大学で研究生活を送り、ホウ素を用いて有機化合物を合成する化学反応「鈴木カップリング」を開発。幅広い分野に画期的な進歩をもたらし、2010年ノーベル化学賞を受賞した。以下、学生と鈴木さんの一問一答は次の通り。 ──研究を進める中で、失敗することがあると思いますが、鈴木先生は研究をあきらめようとされたことはありますか。 鈴木「研究というものは、だいたい失敗する。成功する確率は非常に少ない。ラッキーなときは少ないチャンスで成功することもあるが、研究は失敗するのが当たり前と考えていた方がいい。私の経験では、失敗に強い学生と弱い学生がいると思う。失敗に強い学生は陽性で、あんまり悲観的に考えない。だから私はあんまり心配しなかった」 「しかし、真面目な学生は割に失敗したことにショックを受けることが多い。そうした学生には『きょうは私がおごるから、ビアホールへ行って一杯飲もう』と誘った。そして『風呂に入って早く寝て、あしたまた元気に出てこい』と励ましたことがあります。失敗にショックを受けて研究する意欲をなくさないためにも、研究は失敗して当たり前と考えておくことが大事です」 失敗するたびに落ち込むようでは、研究を継続できないという教えだ。
若い人たちの仕事はたくさん残っている
──もし生まれ変わるとしたら、もう一度、化学の仕事に進まれますか。 「よく聞かれる質問だが、もし生まれることがあるとしたら、やはり今と同じように有機合成研究の仕事をしたい。どうしてそんなに有機合成に関心があるかとも質問されるが、私は今でも有機合成の研究はパーフェクトな状態に達していないと考えている。有機合成でパーフェクトな状態というのは、化学反応を起こす場合、室温、1気圧で、しかも中性でという、きわめてマイルドな条件で反応が起こることが理想だが、人間が開発した反応ではそんな条件でできる例がほとんどない。大きな圧力をかけ、あるいは温度を高くしてというように、特殊な条件が必要になる。常温、1気圧、中性という条件で実現するパーフェクトな反応へは道半ばだ」 「若い人から鈴木先生たちが長く研究をしてきた有機合成の領域で、僕たちに残っている仕事があるんですかって、聞かれることがある。仕事はたくさんたくさんたくさん残っていますから、皆さん心配することはありません。有機合成化学はまだまだ研究することがあるんだということを頭に入れて、将来につながる研究に励んでくださることを深く期待しています」 ノーベル化学賞受賞者にして、研究に終わりはない。研究も仕事も、現状に甘んじることなく、先を見据えて前進を図りたいものだ。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)