今年の日本オープンは伝説になる!? 今平周吾と木下稜介の"奇跡の1打"を振り返る【佐藤信人アイズ】
ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、東京ゴルフ倶楽部で開催された日本オープンの激闘について語ってもらった。 今平周吾のアイアンショット連続写真
改めて「トーナメントは、こういう雰囲気がいいなぁ」と思わせてくれた日本オープンでした。ゴルファーの一人として、関係者の皆様に誌面を借りて御礼の言葉を捧げたいと思います。 特に会場となった東京ゴルフ倶楽部においては、JGA100周年大会というプレッシャーのなか、猛暑もあってコースコンディションを整えるにもご苦労されたはず。アンダーパーは初日が9人、最終日はわずかに2人。 ナショナルオープンにふさわしいコースセッティングが、優勝を決めた今平周吾の約20mのバーディパット、最後まで優勝争いを演じた木下稜介の17番の"チップイン"バンカーショットを生んだのでしょう。 「メジャーのほうが勝つのは簡単」と言ったのはブルックス・ケプカですが、「試合が始まった時点で不平不満を口にする選手は、その時点で優勝争いから脱落している」というのがその理由。 ときにナイスショットが深いラフに入り、グリーンをとらえたショットが傾斜でバンカーに落ちるのがメジャーであるナショナルオープン。そうした理不尽をも受け入れ、それに立ち向かう勇気あるポジティブな挑戦者だけが優勝争いできるのです。 さて優勝した今平周吾ですが、18番のバーディパットが入った瞬間、大きな雄たけびを上げました。「あんな周吾の姿を見たのは初めて」とはバッグを担ぐ柏木一了キャディ。普段は感情を顔にも出さない周吾だけに、ボクにも意外というか驚きでもあり、同時に体が震えるような感動がありました。 最終日のバック9、特に上がり3ホールは手に汗握るドラマの連続。16番でボギーとしますが、ボードを見てまだ1打リードを確認し、17番パー3でパーセーブ。そして後続の木下の17番のティーショットがバンカーにつかまり、流れは周吾に、と誰もが思った瞬間です。 ところが18番のセカンド地点で、最終組から大歓声が。おそらく長く語り継がれるであろう、木下の奇跡のバンカーショット。並ばれたのを知り打った周吾のセカンドは、グリーンこそとらえますが、段差のある約20mのパットを残します。3パットの確率もありそうな難しいパット。周吾が3パットのボギー、木下がパーで勝つというイメージがよぎりました。 木下に視点を変えます。18番のティーショットでフェアウェイをとらえます。セカンドショットを待つ木下の視界には、周吾のバーディパットにより起こった大歓声の総立ちのギャラリーの様子が入ったはずです。 最後まで素晴らしいファイトを見せてくれた木下ですが、もし悔いがあるとすれば18番のセカンドかもしれません。木下の持ち味といえばアイアンショットの精度。バーディチャンスが求められる場面で、木下のショットはグリーンを外しました。 決して簡単なショットではありませんでしたが、「プレッシャーのなかでもピンに絡めるショットが打てる技術を身に付けて、来年またリベンジしたい」。 ホールアウト後の涙目と、前向きなコメント。この“1打”は、必ずや今後の木下の糧となることを期待しています。 ※週刊ゴルフダイジェスト2024年11月5日号「さとうの目」より
週刊ゴルフダイジェスト